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奇跡のDH

彼は、DH、指名打者だ。
打順は9番。

出番がくれば、勢いよくベンチを飛び出して、ネクストバッターズサークルでブンブンブンブン、バットを振り回す。

彼の番がくるとわかると、ピッチャーに向かってにんまり笑い、バットのグリップに入念に滑り止めのスプレーを振りかける。
球審とキャッチャーに軽く一礼してバッターボックスに入ればいつものルーティーン。

右足で足場をガリガリ掘って、左手はピッチャーに向かって、もうちょっと待っててくれとばかりに軽く挙げ、
右手に持ったバットの先端が1,2度ホームベースの表面を軽くかすめる。

左手の小指を終端にあてがい、ぐるり、と一周させるバットの軌道の華麗さに観客ははっと息をのむ。

一球目は、様子見で見逃しだ。
二球目も、まだまだあせっちゃいけません。
三球目こそ勝負の球だ。
全身の力を込めて、バットを振るけれど、結果はいつでもおんなじ、
三球三振だ。

ピッチャーに深々と頭を下げ、
ベンチにさっそうと帰っていくその背中の潔さ。

スポーツ新聞の記者に囲まれた彼が口にするのには、
「オレの調子は最高だった。だけど、最高のピッチャーがオレを待っていた。
 あの場面であの球を放られたら、オレは打てないよ」

たまには、4球やデッドボールで、塁に出ることもある。
そんなときに、彼の言うのには、
「あのピッチャーは今シーズン最高の集中力でオレに向かってきた。
  だからオレも、今シーズン最大の集中力を持ってヤツの球を迎えた。
  その結果がこれだ。 どっちがどうだとかじゃない。ただ、ヤツの運が悪かっただけさ」

打率は0割0分0厘。
 皆目、ヒットは打たないけれど、
誰もが彼をこう呼ぶ。
奇跡の指名打者(the designated hitter of the miracle)

・・・・・

ながすぎる

も面白いけど、

こういうのはどうですか???

海豚(いるか)  dauphin・・・

                           背中に子どもを乗せる。

—フローベール『紋切型辞典』 山田爵 訳


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