「『北の海』」 北川司さん
親父の本棚にありました。
早速読みます。
赤坂さんの『愛と暴力・・・』もこの前注文し、半分ほど進みました。
靖摘む三十年のうす埃
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おたよりありがとうございました。
残念ながら、私の本棚は埃を払っても、「摘む」べき井上靖の本は新潮文庫「井上靖全詩集」のほかありません。
その中から「北の海」ならぬ「北国」という一編を。
北国
いかにも地殻の表面といったような瓦礫と雑草の焼土一帯に、粗末バラック
の都邑(という)が急ピッチで造られつつあった。焼ける前は迷路(ラビリ
ンス)と薬種商の老舗の多い古く静かな城下町だったが、そんな形跡はいま
は微塵も見出せない。日々打ちつづく北の暗鬱なる初冬の空の下に、いま生
まれようとしているものは、性格などまるでない不思議な町だ。それにして
もやけに酒場と喫茶店が多い。オリオン、乙女、インデアン、孔雀麒麟、獅
子、白鳥、カメレオン――申し合わせたように星座の名がつけられてある。
宵の七時ともなると、町全体が早い店じまいだ。三里ほど向うの日本海の波
の音が聞こえはじめるのを合図に、街の貧しい星座たちの灯も消える。そし
てその後から今度はほんものの十一月の星座が、この時刻から急に澄み渡っ
てくる夜空一面にかかり、天体の純粋透明な悲哀感が、次第に沈殿下降しな
がら、町全体を押しつつむ。確かに夜だけ、北国のこのバラックの町は、曾
(かつ)て日本のいかなる都市も持たなかった不思議な表情を持っていた。
いわば、星の植民地とでもいったような。
これは戦後すぐの富山のことでしょうか。
橋本氏が大学にいた頃にも、そこには「オリオン」や「孔雀」といった喫茶店や酒場はあったのでしょうか。
ふと、冬の夜「星の植民地」になる町、に憧れたりします。
すてぱん
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