「夜明けの蝉」 北川司さん
鳴き始む蝉一匹の夜明けかな
自分で解説するのもなんですが、去年もこんなような句を作りました。
夜勤を終え、缶ビールを飲もうとする頃、まず一匹が鳴き始めるのです。
しらじらと夜の明けるのにあわせて。
やおらそれが二匹、三匹と増えていく。
今年の夏もまた、短い命を生き始める。
まず鳴き始める彼は偉い!
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おたよりありがとうございます。
金沢で朝早に鳴くのはアブラゼミでしょうか。
こちらはミンミンゼミばかりがはばを利かせています。
室生犀星に「蝉頃〈せみごろ〉」という詩があります。
蝉頃 室生犀星
いづことしなく
しいいとせみの啼きけり
はや蝉頃となりしか
せみの子をとらへむとして
熱き夏の砂地をふみし子は
けふ いづこにありや
なつのあはれに
いのちみじかく
みやこの街の遠くより
空と屋根とのあなたより
しいいとせみのなきけり
若い頃愛誦した詩です。
このような詩を好んだというのは、「蝉頃」などという聞きなれぬことばが、にもかかわらず耳という感官によるたしかな身体的実感を伴っていて、それが
はや蝉頃となりしか
と歌われるとき、時間の経過に敏感な青年の淡いセンチメンタルを刺激したのでしょう。
もちろん、そんなものをのぞいてもこれがうつくしい調べをもったよい詩であることにかわりはありません。
ところで、ここで「しいい」と鳴くのはニイニイゼミでしょうか。
そういえば、この地に来て、いまだニイニイゼミの鳴くのを聞いたことがありません。
あれは大きさも意匠も鳴き声もふしぎにさびしい蝉ですが。
すてぱん
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