「微生物の狩人」 邑井雅和さん
私は小学校の低学年の頃、父方の祖母と二人で暮らしていました。
明治生まれの祖母は躾に厳しい人でした。
ある時、担任の先生が「歯磨きというものは食事の後にするものです。皆さんは、朝起きて顔を洗う時に歯を磨いているようですが、それは間違っています。せっかく歯を磨いても、その後に朝ご飯を食べれば口の中は汚れたままです。皆さん、明日から歯を磨くのは朝ご飯の後にしましょう」と話されました。
これは、私が生まれて初めて耳にした論理的な話で、いたく感動しました。
翌朝、私は当然のごとく洗顔の後に、はっか味で瓶詰の歯磨き粉には手を出しませんでした。
すると、それを見た祖母は「なぜ歯を磨かないのか」と詰問するのです。
担任の先生から歯磨きは食事の後にするものだと聞いたからだと答えると、祖母は語気を荒げ「お前の担任は子どもに間違ったことを教える馬鹿者だ。そんな者の言うことは聞かなくていい。さっさと歯を磨いてしまえ」と頭をはたかれました。
またある時、担任の先生が「食事の後に、しばらく横になって休むのは消化のために大変良いことなのです」とおっしゃいました。
そこで休日の昼ご飯の後、ごろんと横たわっていると「行儀悪い。食べてすぐ寝る者は牛になる」と祖母に叱られました。
担任の高説を持ち出すと「お前の担任はよくよくの阿呆じゃ。こんど校長に言って注意してもらわなダメや」と頭をはたかれました。
不注意な発言で担任がくびになることを恐れた私は、以後、学校での出来事をいっさい祖母には話さなくなりました。
ですから、私にはレーウェンフックが死ぬまで自作のレンズを、誰にも渡さなかった気持ちがわかるのです。
てなわけで、寺西さんが郵送してくれたレーウェンフック(微生物を追う狩人の最初の人)は、実に楽しい読み物でした。
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