冬の夕暮れ
凧(いかのぼり)きのふの空の有りどころ
与謝蕪村
午後雨が上がった空気は澄んで澄んで青い冬の空が広がっていました。
四時を回った頃でしょうか、本屋を出ると十四日の白い大きな月が北東の空に浮かんでいました。
もう空はその光を失いかけています。
同じ光を失うのでも、夏の空はまっすぐに深い紺色へと沈んでいくのに、冬の空は白っぽく光を失っていくようです。
そうやって頭上の空は次第に光を失っていくのに、西の空だけは赤く色づいて美しい冬の夕焼けです。
冬の日暮れ、駅前の陸橋の上から見る夕焼けがわたしは好きです。
誰も足を止めたりはしないのですが、そんな人の行き来を感じながら見る夕焼けが好きです。
冬の夕暮れ、人びとは夏よりも足早にみなそれぞれの帰り先に向かってに流れていきます。
そんな「生活」を持った人々への、はるかに懐かしい思いが生き生きと自分の胸に息づいていたころへの郷愁めいた思いがわたしの胸にわいてきます。
そのものを懐かしがるのではなく、そのものへの懐かしさを懐かしがるなどというのは老年のしるしなのでしょうが、それでも冬の夕焼けを見るとわたしの心はやはり生き生きとしてきます。
家に帰りつく頃、裸の木々たちの枝はすっかり影絵になり、振り返ると月ばかりがその光を増していました。
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