凱風舎
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くずの花

 

  葛の花 踏みしだかれて、色あたらし。この山道を行きし人あり

                                   釈 迢空

 

 毎年五月のはじめとこの時季、古墳公園の下の遊歩道を歩くと、道に美しい紫色の花が落ちている。
 同じ紫色でも、五月の花は淡い青みがかった紫であり、この時季のは紅がかった紫の花だ。
 春落ちてくるのは藤の花、今落ちているそれは葛の花。
 どちらもマメ科の花で、色だけではなく花の形も大きさもよく似ている。
 どちらも、見上げてみても崖に生えた木々の葉だけが見えるだけで、花が咲いているのは見えない。
 崖の上の藪から遊歩道の脇に生えている木々の上に葉を広げて花を咲かせているのだろう。
 ただ、道に落ちた花だけがそれがあることを知らせるだけだ。

 葛の花で私が思い出すのは、引用の歌しかない。
 「古今集」以来、なぜか葛は葉の裏が白いということでしか歌われていないから。
 けれど、野放図に蔓を伸ばし葉を広げるこの植物の花が咲いている姿は可憐で美しい。
 そして、それが乾いた秋の道に落ちているさまは、別に〈踏みしだかれて〉いなくても、どこか人生の寂寥に通じるような美しいさみしさがある。


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