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論破と説得

 

「三度笠」――(略)多くの股旅ものでは、三度笠はかぶるものとして以上に、放り投げるものとして効果的に使われ・・・・。(山根)

 

 ― 辻原登 「小さな事典」(『熊野でプルーストを読む』)―    

 

 勝田氏から電話がありました。
 彼もすこしオツカレらしい。
 夏バテです。

 当然です。
 来年になれば、彼だって還暦ですもの。
 昔歌った童謡に

   むーらの渡しの船頭さんは
   こーとし六十のおじいさん
  
 年は取ってもお舟をこぐときは
   元気いっぱい櫓がしなる
   それ、ぎっちら、ぎっちら、ぎっちらこー

というのがありましたが、六十はまぎれもなくおじいさんです。
 そして私らは
   やーがて六十のおじいさん
なんですから、夏バテもします。
 (ところで、この歌、おさない私には謎の歌でした。
   村の「私」のせんどさん
  と
   ロガシナル
  が何事かわかりませんでした。)

 その勝田氏が言うのです。
「あなた、野田氏の演説にエラク感動しとるようですが、まさか、あの中の
  〈論破〉ではなく〈説得〉を!
というところを、他人事、として聞いたんじゃあ、ないでしょうね」

 大笑いしました。
 そうでした、私、〈論破〉人間なんでした!
 思えば、私、いまだかつて人を〈説得〉したことがないのでした。
 〈論破〉一筋六十年。 
 そして、それができぬとなると、かつての日本映画の股旅物ごとく、すぐに合羽と三度笠を放り投げて、腰の脇差に手をかけていたのでした。
 要するに三下野郎なんですな。
 幼い頃、家の近くにあった「寺町シネマ・パレス」で東映の股旅ものの映画を見過ぎたせいかもしれません。
 いやはや。
 もちろん、対話を拒む者に「民主主義」を云々する資格はないのでした。


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