マツの雌花
あの方にとって、妻を恐懼(きょうく)するというのは、確かな幸福な家庭の形なのです。(中略)幸せそうな家庭では反対に男は口うるさい妻に仕え、妻の機嫌を取ろうと必死です。そうした家庭はなんと温かい笑いで充ちていることか。
― 林真理子 『六条御息所 源氏がたり』 ―
こないだ、中間テストだったと思ったら、ひと月もたたぬうちに今週末はもう中学校は期末テスト。
「おまえら、ちゃんと勉強しろよ」
などと言ったって、男の子たちは部活休みがうれしくて遊び呆けている。(特に1・2年生。)
言うまでもなく、彼らは大変正しい中学生たちである!
はてさて、それでも塾にやって来た1年坊主たちの今度の理科の試験範囲は「植物のつくり」。
被子植物のおしべ・めしべの区別はわかるらしいが、裸子植物であるマツの花のつくりなんて知ったことじゃない。
ワークの問題にある雄花と雌花の区別を、
ドチラニシヨウカナ、カミサマノイウトオリ
と、鉛筆を動かしながら運に任せている。
まあ、オバナもメバナも見た目はほとんど同じだからな。
「あのな。」
と私は言う。
「おまえらのウチで、父ちゃんと母ちゃんと、どっちが強い?
どっちがイバッテる?」
「お母さん。」
「だろ?
植物も一緒や。
エライ奴は上におる。
マツの花でも女の方がエライんや。
だから、上の方に付いているのがメバナで、下におるのがオバナや。」
などと、こんな非科学的な教え方で理科を教える塾もどうかと思うが、子どもたちから見て、お母さんの方が権力が強そうに見える家庭というのは、それはきっと良い家庭なのだ。
「斧」とは、もちろん家の外で男が使う道具だ。
家の中では使わない。
自分が「斧」なんて持ってないみたいに男がふるまえる家庭は良い家庭に決まっている。
男にだってそんな家庭は居心地がいいだろう。
いわゆるDVをふるう男たちというのは、ひょっとしたら、外で「斧」をふるう機会が与えられていない男たちなのかもしれないね。
(今週、試験が終わったら、叔母の見舞いに国に帰る予定です。)
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