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新しい道

 

 廃れたる園に踏み入りたんぽぽの白きを踏めば春たけにける

                    ― 北原白秋 『桐の花』 ―

 

 

 僕の5メートルほど前を小学校の3年生くらいの女の子と母親が歩いている。
 「あ、タンポポ、綿毛になってる。」
 母親の方が大発見したみたいに言う。
 「学校んとこのタンポポも綿毛だよ。」
 女の子が答える。
 「そう。
  このごろお天気いいからねえ。
  雨の日とかはねぇ、こんな風に開かないんだよぉ。
  じーっとつぼんでるの。」
 そう言いながら母親がタンポポを手に取ってふーっと吹く。
 なんだか、楽しそうだ。
 もちろん、見ている僕も楽しくなる。
 あんなかあさんに吹いてもらったらタンポポの種だってずっと遠くまで飛べそうだ。
 そうやって道をなんとなくこの親子のあとから歩いていたら
 「あ、さっちゃん、こっちからも行けるよ、きっと。」
 枝道が出ているといるところで母親がそう言う。
 なんの変哲もない普通の道だ。
 でも、その女の子は道の先をのぞきこんで言うんだ、
 「あ、ほんとだ!
  また新しい道、見つけたね!」
って。
 で、二人は道をそっちの方に曲がって行った。
 そんな二人をなんだかにこにこした気分で目で追いながら僕は
  なんていいんだろう
って思ってた。
 だって、
  また
ということは、これまでだってあの二人はいっぱい《新しい道》見つけてきたってことなんだものね。 
 他の人にはありふれた道でも、それを自分にとって
  《新しい道、見つけた!》
って思えることって、すごくすごくすてきにいいことだものね。
 おかげで今日は、なんだか僕までタンポポの綿毛になって空にふんわり浮かんだみたいだった。

 


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