月下徘徊老人
花間一壺酒
独酌無相親
挙杯遨名月
対影成三人
花間(かかん) 一壺(いっこ)の酒
独り酌(く)んで相親(あいした)しむなし
杯を挙げて名月を遨(むか)へ
影に対して三人と成る
ー 李白 「月下独酌」 -
今日は十三日のおぼろ月。
風もなくあたたかい。
微醺を帯びていながら、こんな夜に外を歩かなかったら李白に顔向けができないな、とテラニシは思うわけだ。
( 花咲く木かげに酒つぼひとつ
一人酌む酒相手がいない。
上った月に杯あげりゃ
影も出てきて合わせて三人(みたり)。 )
もちろん、かかる夜はかかる状況で飲むべし。
マグボトルに酒を入れて出かけた。
李白は続けて歌う。
月既不解飲
影徒随我身
月 既に飲(いん)を解せず
影は徒(いたづ)らに我が身に随(したが)う
( 月はもともと飲めやしないし
影は私の真似するばかり。)
それは承知のうえ。
だからこそ、
暫伴月将影
行楽須及春
暫(しばら)くは月と影を伴ひて
行楽 須(すべから)く春に及ぶべし
( でもしばらくはこいつら友に
春の愉快を逃がさでいよう。 )
というわけで、いい気になって春の夜更けをぶらぶら出かけ、散り落ちた桜の花びらで夜目にも白くなった階段をのぼってみたものの、世は節電を唱えているというに公園には明るく街燈がついていて、おぼろの月でできる影なんて見えやしない。
けれど、埴輪の馬はおとなしくいつもの場所に立っていて、その首筋を叩いてから、横に腰をおろして酒飲んだ。
「影」の代わりの埴輪の馬。
なかなかかわいい、いい奴だった。
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