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昭和の歌

 

やすやすと時の力になびくさまなべてありし日に變ることなし

 

 

 

                          柴生田稔

 

 

 

国論の統制されて行くさまが水際立てりと語り合ふのみ

 

一筋にかつてのときは抗(あらが)ひき驥尾(きび)につきてと今人に和す

 

連行されし友の一人は郷里にて西鶴の伏字おこし居るとぞ

 

                               近藤芳美

 

おもねりて世を生くる輩(やから)しげければ悲しきばかり国を憂ふる

 

物言はぬわが日となりてしらじらと秋の河原の石にまじれる

 

今の世に憂憤の歌の一つだに詠まずしあらばうつけものたれ

 

 

                               前川佐美雄

 

年老いて時におもねる文章は今日もひきつづきて夕刊に出づ

 

暗きより鳴く蜩(ひぐらし)を聞きてをり幾時(いくとき)経なば朝暑からむ

 

戦争はなかるべからずと彼(か)の時にも富みたる者らいちはやく言ひき

 

やすやすと時の力になびくさまなべてありし日と變ることなし

 

                                柴生田稔

 

 

昔なにげなく読み飛ばしていたこれら昭和の歌たちがまるで今のことのようにリアリティをもって読まれる時が来ていることにおののいています。

 

夜の雨聞きつつ寝(い)ねし朝のラジオ午後には雪と予報を告げき

 

 


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