凱風舎
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――いや、心配しなくていいのだ。何も心配するには当らない。海をまだ知らないものは訳もなくそれを飛び越えてしまふのだ。その海がほんとに大きく思へるのは、それはまだお前たちではない。海の上でひとりぼつちになるのは、それはお前たちではないだらう……。

 

― 三好達治 「燕」―

 

今日はほんとにあたたかだった。
こんなあたたかな入試の日なんてここ十年なかったくらいだ。

四時過ぎ、試験を終えた子どもたちがやって来る。
答合わせをしてやると、数学あたりのてんでわからなかった問題は、解いてあげると「なーるほど」などと感心しているが、社会や理科の勘違いのまちがいには「ああーあ」と声を出して嘆いている。
酵素の「酵」の字の右を「考」と書いてしまった男の子は、
「ああ、見栄を張るんじゃなかった!ひらがなで書けばよかった!!」
と心から叫んで、みんなに笑われている。
英語のFridayの綴りをFlydayと書いてしまった子は、私に
「なに。おまえ、明日は飛ぶ日か!」
と笑われて、
「そう。明日の面接、うまくいくってこと!」
などとすましている。

なあに君だけじゃない。
みんなうまくゆくだろうさ。
答を言うたびに「ふう」と深いため息ばかりついていた子も、きっと合格する。

ウソだと思うなら三好達治の「燕」という詩を読んでごらん。
南に帰る日が近づいた子燕に

――海ってどんなに大きいの、でも川の方がながいでせう?

とか

――もし海の上で疲れてしまつたらどうすればいいのかしら。海は水ばかりなんでせう。

などと聞かれた親燕が答えているように、それがどんなに大きく不安に思えても、実は

海をまだ知らないものは訳もなくそれを飛び越えてしまふ

ものなのだから。

とはいえ、合格発表までの一週間は気が抜けないね。
かりに今回はダメでも、後期の入試があるからね。
とりあえず真面目に勉強しながら吉報を待とうや。

 


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