凱風舎
  1. 「凱風舎」トップページ
  2. 秘伝のたれ

秘伝のたれ

粥時(しゅくじ)の菜を調(ととの)うる次(おり)に、今日の斎時に用いし所の飯羮(はんこう)等を打併(だへい)す。盤桶〈ばんつう)幷(ならびに)什物(じゅうもつ)調度も精誠(せいせい)に浄潔(じょうけつ)し洗灌(せんかん)す。

〈明日の朝のおかゆのおかずを準備するときに、今日の昼食に用いたご飯や汁物などのあと片付けもする。飯櫃や汁桶、および食器・道具類もまごころをこめてきれいに洗い清める。)

 

― 道元 「典座教訓(てんぞきょうくん)」―

 

暮れに家賃を払いに行ったら、今年も大家が餅をたんとくれた。
餅は好物である。
なおかつ餅は料理が簡便である。
ものの五分もあれば食べられる。
というわけで、このところ小腹がすくたびに雑煮ばかり食っていた。
毎回同じものを食うのであるからして鍋なんぞ洗うのは面倒である。
前回の余った汁に水と醤油を足して鶏肉を入れ、そこに酒と砂糖を少々混ぜて、最後に菜っ葉を放りこんで餅がやわらかくなるのを待つ。
そんなことを続けて四日、鍋の中の汁はなにやら創業百年のうなぎ屋の「秘伝のたれ」めいて来た。
だからといって、むろん別段味が格別よくなったわけではない。

とはいえ、そんなことを続けて四日。
さしもの餅も底をついた。
というわけで、永平寺の什器とは対極にあった私の鍋も今夜ようやくきれいになりました。

合掌。

 

 

 

 


----------------------------------------------------------------------------