カワイイ
思ふ人こよひの月をいかに見るや常にしもあらぬ色にかなしき
伏見院
5時過ぎから塾に来ていた子どもたちを6時半を過ぎた頃、促して外に出る。
月は下の方から欠け始めている。
東側の階段の手すりのところに出た子供たちはてんでに
「うわぁー!」
と声を上げる。
初めて見るのだ。
声も上がる。
「スゴクナイ?」
という子もいれば
「お月さま、カワイイッ!」
などという子もいる。
なるほど、これも「カワイイ!」ですか!
日食とちがって月食は何度も見たことがあるので、私にさほどの感慨があるわけでもないが、そう言われて、誰かに一口かじられたメロンパンみたいな月を見ていると、なんだかそんな気もしてくる。
ちょっと、カワイイ。
7時半、彼らが帰るとき、一緒に外に出ると、月はもうすっかり銅(あかがね)色になって、まあるく浮かんでいる。
伏見院の歌にある
常にしもあらぬ色
とは、ひょっとして、こんな月食のときの月の色だったのではあるまいか、など思ったりする。
そして、この
かなしき
はひょっとして漢字で書けば「愛しき」で、要は「かわいい」ということかもしれない。
・・・などと思ったりするのは、とりあえず、私に、それを
いかに見るや
と、問うべき人もないがゆえの感想ではあるのだが。
思ふ人こよひの月をいかに見るや常にしもあらぬ色にかなしき
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