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読書(よみかき)村

 

 

みちばたに
焚火のあとがある
僕はいつもそこに立ち止るのが好きだ

 

― 木下夕爾 「山麓の歌」 ―

 

わたしが住んでいる津田沼という地名は、昔からあった名ではなく、当時あった
  津
久々(くくた)
  沼
の三つの地名を合わせて、明治になって作られた地名だそうだ。
安直といえば安直だが、三つの村のメンツを立てるとなるとそうなるのだろう。

 

昼のテレビのニュースで土石流に押し流された長野県の一家のうち中学一年生の男の子が亡くなったと伝えていた。
誰だって不慮の死はかなしいに決まっているが、春秋に富む者の死はましていたましい。
眉をひそめて画面を見ていると
アナウンサーが、一家が住んでいた場所を
《長野県南木曽町よみかき地区》
と告げた。
見れば、画面には《読書》と書かれていた。

Wikipediaで調べてみたら、「よみかき」、という地名も、津田沼と同じく明治になって新しく村を作る際に三つの地名を合わせてできた名前であったらしい。
元の三つの村名は

与川(がわ)村
三留野(どの)村
柿其(かきぞれ)村

けれども、村人たちはその表記を《津田沼》のように《与三柿》とはせず、「読書」とした。
そう名付けたときの村民たちはきっととても誇らかな気持であったろうと思う。
山間の、たぶんは貧しい村だったろう。
けれども、

よみかき村 よみかき小学校。

よい名だ。
新しい明治の世を背負う子どもたちが育つにふさわしい名前だ。
子どもたちこそが自分たちの宝であるという思いが新しい村の名にあらわれている。
なんという、よい名の村だ。

その村の中学一年生の男の子が土砂に呑まれて死んだのだという。
せつない。

 


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