凱風舎
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男の子

 

   ほほえむことができぬから 
   
青空は雲を浮かべる
   ほほえむことができぬから
   木は風にそよぐ

   ほほえむことができぬから
   犬は尾をふり――だが人は
   ほほえむことができるのに
   時としてほほえみを忘れ

          ー 谷川俊太郎 『ほほえみ』 -

 

 

 日常が戻らない。
 戻るはずもない。福島で起きていることが日常ならみんな白血病で死んでしまう。
 でも、そんなんじゃなくても、ここらへん、なかなか日常に戻れない。
 いつもと違う日が続いている。

 近くの団地はまだ水が来ていないらしい。明日まで。
 みんななんだかアフリカの少女たちみたいに水汲みに出かけている。
 みんな、あの女の子たちみたいに頭にバケツを乗っけるなんて秘法を会得していないから、両手に容器。
 なかなか大変だ。

 昨日やって来たユウキ君は中一。ほかの子はお休みだという。
 彼に、お風呂に入っているのかと聞いたら首を横に振る。ここで入れよと言ったら、じゃあ、着替え取って来る、って、勉強道具、放り出して家に戻った。

 自慢じゃないが、私、風呂の掃除なんてほとんどしない。自分一人が入るんだもの、少々の汚れ気にもしない。
 とはいえ、人を入れてあげるのだ、と思って、彼が戻ってくる間にせっせと風呂を磨く。
 なんだよ、こんな短時間できれいになるなら、いつもやれよ、と思うが、まあ、やらないな。
 でも、なかなかきれい。
 湯船に熱い湯を入れていると、ユウキ君が汗だくになって戻って来た。フルスピードで自転車をこいできたらしい。

 風呂上がりの少年、すっかりうっとりしている。とても勉強なんて気分じゃあないのは、その顔を見ればわかる。
 いろいろ話を聞く。

 あの地震のとき、全校生徒が体育館で卒業式の練習をしていたらしい。そこに、震度5強。
 女の子は悲鳴を上げ、泣きだす子も多数。
 「男で、泣いたの、いた?」 
と聞けば
 「さすが、泣いたのはいなかったけど、ふざけてて叱られたのがいた。」
と言う。
 「なんじゃ、叱られたって?」
 「揺れがおさまってるときに『わー、地震だあ!」とか言って、わざと友達にドーンとぶつかり合って騒いでたら叱られた。」
 
 あほですねぇ。
 男の子ってなんなんですかねぇ。
 全然事態をわかってない。
 現実把握能力ってやつが女子と比べると格段劣っています。 と言うか、ゼロに近い。
 でもまあ、私も中学生でそこにいたらきっとやってましたね。司君は言うまでもなく!!
    「わー、また地震だぁ! どーん。」
 ほんま、アホです。

 「みんなで体育館から校庭に出る時、歌いながら避難してた奴もいたよ。」
 「豪気やなあ。どんな歌、うととったんや?」
 「『大地讃頌』。」

 私、大笑いしてしまいました。
 大地震のあった日に『大地讃頌』って、あなた、それじゃあ、職員室前に正座でしょう!
 ほんま、男の子はアホです。
 でも、まあ、それでこそ、正しい日本の男子中学生です。
 すくなくとも司君がそう言ってくれます。

 ところで、この地震、春場所がなくなってお相撲さんたちが四股を踏んで大地を鎮めなかったからではないか、なんて思っているのは、たぶん私だけなんでしょうね。

 


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