彼らは、飛べると信じている
私たちが飛べないのに、鳥が飛べるのは、ただ鳥が飛べるという完全な自信を持っているからにすぎません。なぜなら、自信を持つことは翼を持つことになりますから。
― ジェームズ・バリー 「ピーター・パン」 (本田顕彰 訳) ―
ずんぐり黒光りする体。
ぶんぶん唸る羽音。
そらをとぶバイクみたいなはちがくる
この、こないだ紹介した小学校二年生の俳句は、きっとクマンバチのことを指しているにちがいありません。
なにしろ間近で耳にするその音は、まったくエンジン全開のバイクのようですから。
はてさて、今年もフジの花が咲き、クマンバチの季節がやってきました。
というわけで、私の家の近くの古墳公園でも、なわばりを主張して空中にホバリングを続けているオスのクマンバチに会うことができます。
そんな彼らは、自分のテリトリーを横切る者があれば、ただちにホバリングを停止して、全速力でその侵入者の追跡に取りかかります。
もっとも、それは侵入者を追い立てるためではなく、やって来た者がメスかどうかを確認するためだともいわれています。
それにしても、その追いかける速さと言ったら!!
追う者と追われる者、2頭の蜂はほんとうに瞬く間に数十メートル彼方まで飛んでいくのです。
けれども、10秒とたたないうちに、そこに立っていたわたしの目の前の舗道には、ふたたび空中にとどまる彼の影がくっきりと落ちることになります。
もう元のところに戻って来たのです。
ブンブン・ブブブ~ン。
もちろん、その音も戻ってきています。
ところで、このオスのクマンバチ、見た目のいかつさやその轟々たる羽音とはうらはらに人を刺す針を持っていません。
そもそも、彼らは人間になんて興味がないのです。
彼に興味があるのは、おいしい花の蜜と可愛い雌のクマンバチ。
あとはただ自分の羽音に聞きほれているだけです。
ところで、このハチは、ずんぐりした胴体のわりに実は小さすぎる羽しか持っていません。
それは、かつての力学においては、けっして飛べないほどの小ささなので、
彼らは、飛べると信じているから飛べるのだ。
という説が、科学者の間でまことしやかにささやかれたことあったそうです。
いやはや、すごいなあ!
いまでは、彼らが飛べる理由も力学的に解明されたそうですが、そんなこと解明されなくても、飛ぶ奴は飛ぶのです。
それは、言葉を変えると、「ピーター・パン」の中でバリーが書いている
飛べるという完全な自信
というやつです。
大事なのは、その「自信」ってやつです。
羽だろうが翼だろうが、そんなものは「自信」で、勝手に生えてくるんです。
いずれにしろ、飛べないと思っている奴なんて、永遠に飛べやしないのですから。
それにしても、クマンバチって、やっぱりいい奴でしょ?
私、彼らを見かけると、いつも、なんだか元気になってくる。
もちろん、今日も。
追伸: 虫屋(昆虫採集者)の間では、虫は、「一匹、二匹」ではなく「一頭、二頭」と数えます。
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