なのはなが月のでんきをつけました
月のひかりはお屋根から
明るい街をのぞきます。
なにも知らない人たちは
ひるまのように、たのしげに、
明るい街をあるきます。
月のひかりはそれを見て、
そっとためいきついてから、
誰も貰わぬ、たくさんの、
影を瓦にすててます。
― 金子みすゞ 「月のひかり」―
週末の夕刊によれば、火星が月にもっとも近づく夜は今夜らしい。
たしかにタバコを買いに外に出れば、火星は昨夜の勝田氏の写真よりは月に近づきほとんどその真上にある。
火星がそばにいたからって、誰も月を見ていない。
月が捨てたひかりで瓦が白く光っている。
まったく金子みすゞの歌ったとおりだ。
でも、お月さまを見ていた子もいる。
今日の表題はそんな子が作った俳句をつかわせてもらった。
蕪村だってびっくりする。
山村暮鳥も負けている。
小学校一年生の女の子だという。
驚くことがすべてのはじまりである。
そして、人はきっとたくさん驚いているにちがいない。
けれども、その驚きや発見にかたちを与えることはむずかしい。
韻律というものがある。
驚きに韻律が与えられれば、言葉は詩になる。
そのことを教えてくれるのが子どもの俳句だ。
以下、「小学生の俳句歳時記」(金子兜太 監修・あらきみほ 編著)所収の小学生の俳句である。
松岡正剛が紹介していた。
びっくりする。
すごすぎる。
一読あれ。
あいうえおかきくけこであそんでる
(小2女)
ぼんおどり大好きな子のあとにつく
(小6女)
まいおちる木の葉に風がまたあたる
(小5男)
ねこの耳ときどきうごく虫の夜
(小4女)
くりごはんおしゃべりまぜて食べている
(小3女)
あきばれやぼくのおりづるとびたがる
(小1男)
座禅会むねの中までせみの声
(小6男)
かいすいよくすなやまかいがらすいかわり
(小1女)
風鈴に風がことばをおしえてる
(小4女)
ドングリや千年前は歩いてた
(小5男)
海の夏ぼくのドラマはぼくが書く
(小2男)
ぶらんこを一人でこいでいる残暑
(小6男)
春風にやめた先生のかおりする
(小4女)
ガリバーのくつあとみたいな夏のくも
(小1女)
夏みかんすっぱいあせをかいちゃった
(小1男)
なのはなが月のでんきをつけました
(小1女)
せんぷうき兄と私に風分ける
(小5女)
転校の島に大きな天の川
(小4男)
つりばしがゆれてわたしはチョウになる
(小3女)
水まくらキュッキュッキュッとなる氷
(小5女)
そらをとぶバイクみたいなはちがくる
(小1男)
しかられたみたいにあさのバラがちる
(小2女)
かっこうがないてどうわの森になる
(小3女)
星を見る目から涼しくなってくる
(小4男)
いなごとりだんだんねこになるわたし
(小1女)
夏の日の国語辞典の指のあと
(小5女)
墓まいり私のごせんぞセミのから
(小1女)
あかとんぼいまとばないとさむくなる
青りんご大人になるにはおこらなきゃ
(小6女)
あきまつりうまになまえがついていた
(小2女)
あじさいの庭まで泣きにいきました
(小6女)
天国はもう秋ですかお父さん
(小6女)
台風が海をねじってやってきた
(小6女)
話してる文字が出そうな白い息
(小6男)
えんぴつが短くならない夏休み
(小6女)
秋のかぜ本のページがかわってる
(小2女)
----------------------------------------------------------------------------