有雪無詩俗了人
有梅無雪不精神 梅有りて雪なければ精神ならず
有雪無詩俗了人 雪ありて詩無ければ人を俗了す
薄暮詩成天又雪 薄暮 詩成りて天又雪ふる
与梅併作十分春 梅と併せて十分の春と作(な)す
― 方秋厓 「梅花」( 柏木如亭 著 『訳注聯珠詩格』 揖斐高 校注 )―
なるほど朝から雪である。
それでも、今朝も9時過ぎから子どもたちがやって来る。
男の子だ、みんなこんな雪の中を自転車をこいでやって来るから、みんな頭に雪を載せている。
朝からの雪なので、ほんとは窓を開けて塩辛あたりを肴に熱燗なんぞを飲んでいたいんだが、塾の先生、なかなかそうもいかない。
みんな静かに自習しているので、椅子にすわって本棚にあった岩波文庫の『訳注聯珠詩格』という本を開いていたらますます酒が呼んでいるような気分になるが、ここは我慢だ。
『訳注聯珠詩格』というのはなかなか愉快な本だ。
漢詩と書き下し文があって、それに、江戸のしゃべり言葉の訳がついている。
これを読むと井伏鱒二の
ハナニアラシノタトヘモアルゾ
「サヨナラ」ダケガ人生ダ
みたいな漢詩の訳は江戸の昔からあったことがわかる。
ちなみに、この詩についている柏木如亭の訳は
梅が有て 雪が無れば不精神
雪が有ても 詩が無ければ人が俗了る
薄暮に詩が成ると天も又雪になつて
梅と併に十分な春に作
というものだ。
雪があっても 詩がなければ人が野暮になる
ってのはいいですなあ。
というて、薄暮になったとて、わたしに詩ができる気づかいはないのですが。
それにしても、昔の時間はなんとゆっくり流れておることでしょう。
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