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一年の計

 

 

 私は賢者ではないし、私は賢者にはなれないであろう。だから、私に要求してもらいたいのは、私が最善の人間と同等になることではなく、悪い人間よりも善くなるということである。毎日毎日自分の欠点を幾らかでも取り除き、また自分の過失を責めることができれば私には十分である。

 

 ― セネカ 「幸福な人生について」(茂手木元蔵 訳)―

 

 朝っぱらから、酢ダコを肴に熱燗を二合飲みながら本を開いてストーブの前の椅子にすわっていたら、居眠りをしてしまった。
 人の気配に目を覚ますと、部屋の中に真君がいた。

 「あけましておめでとうございます」
 そう言って、紙袋をくれる。
 見ればコーヒー豆とシーバス・リーガルの18ってのが入っている。
「おー、18年ものか」
と言うと
「ぼくと同い年です」
と言う。
 言われればたしかにそうで、そうか、18年というのは人が大学生になるほどの時間だと思えば、なるほど、長い間樽に眠っていたウイスキーなんだなとあらためて思う。
 さぞかし、うまいんだろうが、今日はもう飲まない。

 真君は、あたり前のように机に向かって勉強を始める。
 さすが受験生だ。
 元日も塾でお勉強。
 しかし、いったい、いつからここはこんな塾になったんだ!
 とはいえ、まあ、私がやることなんて何もないので、一向構わないのだが。

 彼が今読んでいるのは、
  The Complete  IDIOT ‘S Guide to Philosophy
という本。
 
 訳せば「バカ者のための哲学案内」ってことになろうが、
「先生、一緒に読みましょうよ」
なんてことを言われても、私の英語力はここに言うIDIOT以下であることはまちがいなく、ホイホイ、二つ返事なんかできやない。
 というわけで、
「わからんことがあれば、日本語で聴いてくれ」
と、一応「哲学科」らしきものに在籍していた「こともある」というあやふやな過去を担保にしつつ、要は真君にひたすら自習させているのである。
 よって、私は、せっかくもらったのだからと、真君に「ブルーマウンテンNo.1」という豆を挽いてもらって、湯を沸かし、ついでに風呂にも湯を張って、風呂場でコーヒーをいただきながら朝の酒を抜きにかかる。
 湯船の中で読むべく手にしたのは一応、岩波の青。
 セネカ「人生の短さについて 他二編」。
 この題名が、正月の湯舟にふさわしいのかどうかはわからないが、手に取ってしまったものは仕方がない。

 というわけで、今日の引用はその本から。

 
 なかなか、よい言葉を見つけたではないか。
 一年の計は元旦にあり。
 よい年にしようっと。

 

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元日からお勉強の真君


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