遠くの人
いまはもうあなたのとなりにいない遠くの大切な人のことを思って聴いてください。
一週間ほど前、夜テレビをつけたら、見知らぬピアニストがそう言ってショパンを弾きはじめた。
(私がテレビをつける前に、その曲をショパンがどのような状況で作曲したのかをその人は語っていたらしい)
さて、その演奏そのものがほんとうにいいものだったのかどうかは知らない。
けれど、そう言われて、そう思って聴くショパンはいいものだった。
(残念ながら、ショパンの曲名を言い当てるほどの耳はないので、私はそれがなんという曲だったかは知らない)
たとえ音楽はなくとも、時折、今はかたわらにいない自分の大切な人をしずかに思うことはいいことだ。
亡くなった者であれ、遠く離れた人であれ、日々の繰り返しの中でつい忘れてしまっていたそんな人のことが、不意に自分の中に思い出されることはいいことなのだ。
それは私が思い出したのではなく、むしろ私にその人が呼びかけてきてくれたのだろう。
それは、たぶん人生でもっとも大切な時間の一つなのだ。
そして、そういった時間を自分が大切に思えるということは、言いようもなくいいことなのだ。
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