PL法
原子炉のごとくさびしき昼寝かな
関悦史
― 高橋睦郎 「季をひろう」―
リュックから教科書を引っ張り出していたカッちんが
「あれえ、こんなもの入ってたぁ」
と言う。
見ると、何かの取扱説明書である。
「なんでそんなもん持って来たんじゃ」
「たぶん、家で教科書と一緒に積んであったんだと思う」
「ふーん」
などと言いつつ、ひまな私、その冊子を手に取ってみる。
表には
取扱説明書
体組成計
と書いてある。
「なんや、これ」
「えーと、体脂肪率とか計るやつ」
「おッ!」
と思ってしまった。
すこしワクワクした。
それというのも、私は「体組成計」というものが、はたしてどんなものかは知らないが、《体脂肪率》を計る器械の「取扱説明書」については知っていたからである。
そこには次のような警告が断固として書かれているはずなのである。
乳幼児には、絶対持ち運びさせない
宮沢章夫氏が何かの本にそう書いていたのを読んで大笑いしたことがあるのである。
本当に書いてあるのであろうか?
私、ページをめくってみた。
すると
たしかに書いてあった。
しかも警告ではなく《禁止》であった。
いやはや、いったい誰が乳幼児にこんなものを持ち運ばせるというのだろう。
ちなみに、説明書の後ろに付いていた製品の仕様書を見ると、この「体組成計」の重量は
約 2.1kg (乾電池含)
なんだそうである。
そもそもこの重さのものをはたして乳幼児が持てるのであろうか。
子どもを持ったことのない私にはわからないが。
とまあ、だれが見てもばかばかしくて笑ってしまうこんな注意書が書かれているのは、いわゆるPL法とかいう「製造物責任法」ができて、仮に事故が起きた場合、その製品を製造した会社が責任を取らねばならないからである。
ところが、奇妙なことに、もっとも大きな事故を起こし数多くの人々を苦しめている大きな「製造物」については、いまだに誰も責任を取っていない。
いったい、誰がそれを免責にしようとしているのか。
そもそも、原発を造った者たちは、その「本当の危険性」の一つでも皆に開示したことがあったろうか。
今朝の新聞の高橋睦郎「季をひろう」という俳句のコラムに《三・一一忌》と題して引用の俳句が載っていた。
同じ人の句に次のようなものもあった。
終はらぬ世界の終はらぬ汚染虹二重
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