遠い風
机の上のフルートが
風で鳴ることがあると
楽器店の主が言った
かすかに耳に届くような
やさしい音に違いない
― 高山秋津 「けさの風」 ―
今日は朝からあたたかい。
窓を開けた部屋で本を読んでいたら、昼過ぎから高校生たちがやって来た。
期末試験が近いのだ。
勉強していた一年生の女の子が、不意に思い出したように言う。
「せんせ、孔子っていう人、すごいですよね」
漢文で論語を習っているらしい。
「おーっ!なにがすごかった」
「えーと、なんかすごいじゃないですか、どれも。
えーと、
すばらしい人でも追い詰められることがあるんですか、って弟子にきかれたとき、すばらしいひとでももちろん追いつめられることはあるけどけど、ダメな人はそこで動揺してしまうんだよ
と言ったとか、
兄弟がいないって言って嘆いている弟子に、自分がすばらしいひとになれば世界中に兄弟がいるんだよ
とか言ってるとこ」
二千五百年以上も前に生きた人の遠い息吹だけれど、その風はちゃんと女子高生のこころを鳴らすんだなって思った。
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