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ハノイ・高知・仙台

 

 

 大きなホテルでもらってきたベトナム全土の地図には漢字も併記されていた。現在のベトナム語は固有のアルファベットで表記されるが、二十世紀初頭まではこの国でも漢字が使われていたのだ。漢字で示されると、都市のイメージがにわかに膨らむ。ハノイ(河内)、ハイフォン(海防)、タイピン(太平)、ディエンビエンフー(奠辺府)といった具合だ。
 

 ― 今野靖人 「南へ西へ」 ―

 

 

 こないだ読んだ文章にこんなことが書いてあって、なーるほどなあ、と大いに感心したことがあった。

  そうか、ハノイも「河内」だったのか!

と思ったのだ。
 どうやら、ハノイはソンホン川(紅河)という川の中州に発達した町であるらしく、それで「河内」なのだろうが、実は日本に「河内」はたくさんあるのだ。

 もちろん河内と言えばふつう日本人は河内音頭の「かわち」を思い出すが、たとえば今は白山市とかいうものになったのかもしれないが、石川県にも手取川の上流にかつて河内村というのがあった。
 もちろん石川県のみならず、小さな地名で「河内」というのは全国各地にあるのかもしれないが、実は県庁所在地にも隠れた「河内」はあるのだ。
 
 河内音頭の「河内」というのはむろん昔の国名であるのだが、たとえば『伊勢物語』の有名な「筒井筒」の段に、あれほど惚れあった二人なのに、男に新しい女ができて

  河内の国高安の郡に、いき通ふ所いできにけり。

などという文章がある。(男、イケマセンなあ!)
 さて、昔高校生に音読させていたとき、その子が
  こうちのくに・たかやすのこおり
と読むので
 「どいや、どいや。『かわちの国』やろ、『かわち』!」
などとイバッテ言ってやったら
 「だってぇ」
といって見せられた教科書には
  河内(かうち)
とふりがなが振られてあった。
 言うまでもなく、古文の「かうち」は「こうち」と呼ぶのが正しい。
 私、がーん、ときました。
  そうだったのか!
 そうなると、四国の高知という地名はどうなんよ、と地図を見ると、そこには実はいくつかの河川が流れている。
 ということは、「高知」という地名のもともとの意味は合流地としての「河内」だったことがわかって来る。

 さて、「かわうち」はもちろん「川内」とも書くはずで、そうなると今は除染で大変な福島県双葉郡川内村なんてのをすぐに思い出すのだが、一方鹿児島にも「川内」という市がある。
 ところが、こっちの方は「川内」と書いて、実は「せんだい」と読むことになっている。
 「せんだい」と聞いて、もちろんほとんどの人が思い出すのは宮城県の「仙台」で、どれどれと地図を見てみれば、これまたたくさんの川が流れている土地であることがわかる。
 うーん、仙台も「河内」の親戚だったのね。
 高知も仙台も城下町になって殿様あたりがもっとカッコイイ漢字を当てようぜ、ってんでこんな字にしたのかもしれない。
 まあ、いずれにしても、チグリス・ユーフラテスの両河のほとりに建てられたバクダッド以来、流れが複数あるところに都市はできるらしい。
 そういえば、金沢にも犀川、浅野川が。

 というわけで、ハノイ・高知・仙台、姉妹都市はいかがでしょう?
 それとも、もうなってるのかしら?


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