池田町
池田町歩みをとめと逢はず雪ふるなり
― 津村信夫 「早春」 ―
朝のうちは雨だったのに、いつしか雪に変わるや見る見る積もってしまった。
昼を食べて外に出てみたら、雨気を含んだ雪が5センチほど積もっている。
裏通りは車も人もだあれもいない。
むろん、逢うべき「をとめ」のいる年でもないが、久々の雪がうれしく
をとめと逢はず雪ふるなり
なんぞつぶやいて公園に上ってみたら、小さな女の子が二人雪だるまを作っていた。
詩にある池田町は、金沢の私の家から桜坂を下り、桜橋を渡り、犀川をすこし下ったあたりの折れ曲がる細い小路が続く町で、片町香林坊に出るときはたいていこの町を通って行ったものだ。
以下は詩の全文。
早春
池田町歩みをとめと逢はず雪ふるなり
そのかみの武家の屋敷か
門(かど)のべに媼(をうな)しはぶき
円き肩傘してゆき交ふ
雪降ると見れば
また忽ちに晴れゆく青空(そら)は
あはれ北国人の微笑みか
池田町歩み春ともしらず
ここで降っている雪は、積もるともない春の淡雪だろうが、まだ冷たい湿った裏通りの空気とともに私にはほのなつかしい詩だ。
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