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お正月

  

 

   田家春望   高適

 

    出門何所見 
    春色満平蕪
    可歎無知己
    高陽一酒徒     

 

      ウチヲデテミリヤ アテドモナイガ
      正月キブンガ ドコニモミエタ
      トコロガ会ヒタイヒトモナク
      アサガヤアタリデ 大ザケノンダ

 

   ― 井伏鱒二 『厄除け詩集』 ―

 

 

 正月、と言えば、こんな詩を思い出す。
 高校生の頃、講談社から出ていた「風貌・姿勢」という井伏鱒二の本に、ほかの訳詩と一緒に載っていたのを読んだ。
 金沢にいた頃の持っていた本は、大学をやめた時、中也全集以外全部人にもらってもらったので、今は手元にはない。
 黄土色の表紙の本だった。

 一応、漢詩の方の書き下しを書いておけば

  門を出でて何の見る所ぞ
  春色平蕪に満つ
  歎く可し 知己無きを
  高陽の一酒徒

 

 漢詩の方は、
  私のことを本当にわかってくれる奴はいない!
となんだか悲憤しているんだが、ありえないほどに井伏氏の訳はとんでもない換骨奪胎だな。
 でもまあ、井伏氏の訳の方がいいな。
 今日みたいないい天気の日、ふらふら、あてもなく家を出ると

    ウチヲデテミリヤアテドモナイガ
    正月キブンガドコニモミエタ

とつぶやきたくなる。
 まあこれで、家々の門口に日の丸なんかが出ていると、実に正しい昭和のお正月なんだが、でもまあ、それでも正月は正月である。
 さて今年の「津田沼の一酒徒」は家で猪口を重ねただけなのですが。

 


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