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「実体」

 

 「鳥だ!」
 「ロケットだ!」
 「スーパーマンだ!」

 そうです。
 スーパーマンです!

 

 - 昔のテレビドラマ「スーパーマン」の冒頭ー

 

 今やって来た朝日新聞の夕刊を読んでいたら、スゴイことが書いてあった。
 来年、二つの「明るい彗星」がやってくるというのだ。
 こんなのは天文ファンには先刻承知のニュースなのかもしれないが、なかなかスゴイ。

 えー、一つ目は「パンスターズ彗星」とい名前だそうで、3月にやってくるんだそうだ。
 明るさは「マイナス6等級」。
 星の明るさというのは6等星,5等星(以下4,3,2,1、0、-1等星)などというふうに、数が小さくなるほど明るくなっていく。
 ちなみに金星はマイナス4.7等級。
 というわけで、マイナス6等級は相当明るい。
 宵の明星より明るい彗星ということらしい。

 で、11月には「アイソン彗星」ってのがやってくるらしい。
 こいつはマイナス12.7等級の明るさである満月をしのぐ明るさになるらしい。
 すごいなあ!
 どんな明るいしっぽになるんだろう!

 90年代の終りにやって来た「へール・ボップ彗星」はなかなかにすごかったが、あれ以上なんだろうな、きっと。
 たのしみだなあ。

 でも、私、やっぱり気になるのだ。
 あの「へール・ボップ彗星」のときもNHKの科学番組が言っていたのだけれど、今日の新聞にもこんなことが書かれていた。

彗星は長いしっぽを持つ「ほうき星」として知られていますが、その実体は「汚れた氷の玉」と言われるように、水にダスト(ちり)が含まれたものです。

 「ホントにそうなの?それって、ちがうんじゃないの」

 あのときも私は思ったし、今も私は思ってしまう。
 なぜ、
  あんなに光ってるけど、あの彗星の正体なんて《汚れた氷の玉》なんだぜ!
なんて、言ってしまうんだろう。
 そうではなくて、せめて同じことを
  今まで《汚れた氷の玉》と見えていたものの正体は、実は彗星だったのです!!
と、どうして言わないんだろう。

 もちろん、「汚れた氷の玉」であることも、「明るい光を放つ彗星」であることも、どちらも「或るもの」が「或る時」「或る条件の下で」そのような姿を示す「現象」なのであって、どちらが「正体」と言えるものではない。
 絶対零度に近い暗黒の宇宙空間を太陽の引力に引かれて楕円軌道を回る小天体が、たとえ、その周期の99%以上に当たる何十年何百年という時間を「汚れた氷の玉」として回っていようと、彗星としてわずか一月に足らぬほどの光を放つ期間を「仮の姿」として言ってしまうのは、ひどく傲慢であるような気がするのだ。
 どちらも、その時その時のその天体が持つ「実体」ではないか。
 科学者たちが、したり顔にそんなことを言うのなら、実は暗黒の100年こそが「仮の姿」で、今、月にもまさる光を放つ「今」こそが彼の本当の姿なのだ、と私は言ってやりたい気がする。
 たとえば植物の「本当の姿」というのは、花をつけている時なのだろうか、それとも種子に戻った時なのだろうか。
 花の命は短くて、種子である時間は長い。
 だとすれば、種子こそがあの花の「実体」のだろうか。
 もちろん、両方とも、その時その時の「現象」としてあるにすぎない。

 科学は分析と実験を繰り返して、或るものの「正体」はこれだと私たちに示す。
 けれども、ものに「正体」なんてありはしないのだ。
 あるのは、その場その場、その時その時の「現象」としてあるものだけなのだ。

 なるほど、空気中にも酸素はあり、水もまた酸素と水素からできている。
 だからといって、水に顔を突っ込んで息をしようなどとする者はいない。
 水を構成する酸素は、このとき水素と結びついたは「水としての現象」としてそこにあるのであって、それが「今」のすべてだからだ。

  薪が灰になるのではない。

 道元さんはそう書いている。

  薪は薪、であり、灰は灰、なのだ。

と言う。
 同じように私たちもまた《昨日の私が今日の私になる》のではなく、《昨日の私は昨日の私として「現象」し、今日の私は今日の私として「現象」している》だけなのだ。
 それでも今の自分が過去とつながりがあるかのように思い、「自分」というものがあたかも実体のあるもののように幻想してしまうことを、仏教では「迷い」と言うのだろうが、まさに、そのように幻想することこそ、たぶんは「人が生きているという《現象》」の大きな特徴なのだろうと私は思っている。  

 などと、酒も飲んでいないのに、やたらにわけのわからないことを一人で興奮して書きたててごめんなさいませ。
 これで、本物の彗星が見えはじめたら、どんなわけのわからないことを書きはじめるか、今から心配になってきます。

 

 ではでは。

 


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