降れどつもらぬ
母よ母よ 息ふとぶとと はきたまへ 夜天(やてん)は炎(も)えて 雪零(ふ)らすなり
- 坪野哲久 -
今日は朝からお勉強。授業はお昼で終わったが、お昼のお弁当持ってきて午後もお部屋に残る子4人。時折誰かがマル付けしたり、ちがう誰かがノートをめくるそんな音しかきこえない。あとの時間はただストーブのファンの音だけ聞こえてる。外は朝から春の雪。降れど積もらぬ春の雪。今日の塾、図書館より静かだ。おかげで、椅子に座っていた私はいつの間にか居眠りをしてしまっていた。いびきをかいていたらしい。まったく、じいさんだな。
降れどつもらぬ春の雪
ただに路をぞ濡らしける
こころ届かぬとほひとに
思ひかけたる年月を
ふりこし我に似たるかな
煙草ふかしに外に出て、こんな戯れ歌こしらえて、さて、やることもあるじゃない。
今日は2月11日。今日は母の誕生日。生きていたなら、今日が八十八の米寿の祝い。
明るい花が飾られた写真の顔が笑ってる。
引用の歌は石川県の羽咋(はくい)郡出身の歌人坪野哲久(てっきゅう)の歌。死に向かう母親の枕元に彼はいる。
母よ母よ
の字余りが読む者をせつなくさせる。
息ふとぶとと はきたまへ
私も母の枕元でそう言ってあげたかった。
夜の空を明るくするほどに降りくる大きな雪は、彼の母親がそこに生まれそこに生きた能登の自然の、厳しさの象徴であるよりは、むしろその優しさのしるしだろう。それはまた彼を育ててくれた母親の姿とも重なるものだ。
今日はこんな歌を思い出させるような雪の降りようだ。
この雪、きっと夜には積もるんだろうな。
雪ふるや亡き人にも来る誕生日 捨
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