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自分への贈り物

 

   1ドル87セント。それで全部だった。

       ー O・ヘンリー 『賢者の贈りもの』 ー

 

  1.82倍。これが千葉県の今年の公立高校の前期入試の倍率だった。 
  1.82。
  この数字を今朝の新聞で見たとき、とっさにO・ヘンリーを思い出したんだが、本棚から引っ張り出してのぞいてみたら、すこし違ってたね。1ドル87セント。
    1.87倍
だったら引用にぴったりだったのに! ・・・なんてそんなこと残念がってる意味なんてなんにもない。
 1.82倍・・・・・要は、これは9人の受験者のうち4人が不合格になるってことだ。
 ぼくの生徒たちの受ける高校の中の最高倍率は2.56倍、一番低いところでも、1.33倍。2倍以上の高校を受験する生徒は5人いる。
 毎年のことだけれど、この時期、子どもたちの心の負担はほんとに大変だろうなと思う。自分の記憶をたどっても、大学受験のときなんて、だいぶ大きくなっていたせいか、なんだかホイホイ気楽に受けていた気がするけど、高校受験の時はずいぶん緊張していたのを思い出す。倍率がどれくらいだったかなんてちっとも覚えていないけど。
 たぶん、そんなもの実は何の関係もないんだね。
 なにしろ、ほとんどの生徒たちにとって、見も知らぬ大人んたちに、自分が持っている資質のほんの一部だけを以て自分を評価されるなんてほんとうに生まれて初めてのことだからだからね。
 受験まであと5日。ひょっとして彼らは、クリスマスの前日自分の財布を覗いた『賢者の贈りもの』に出てくるあの若妻デラと同じような気持ちなのかもしれない。
  1ドル87セント。
 本当にこれで、自分の愛する夫ジムにすてきな贈り物は買えるのかしら?
 でも、彼らはデラみたいにそれを切って売ればお金に変わるすてきな金髪なんて持ってはいない。たとえ、1ドル87セントであろうと、それが自分の手元ににあるお金なら、その持っているお金すべてを使って自分へのすてきなプレゼントを手に入れるしかない。
 受験まであと5日。さいわい風邪を引いている子もいない。あと私にできることは彼らに余計な肩の力を抜いて試験に臨んでもらうことだけだ。彼ら一人一人が持っている1ドル87セントをちゃんと使いきってもらえるようにすることだけだ。
 あの『賢者の贈りもの』の最後で著者のO・ヘンリーはジムとデラの若い夫婦のことを
   人にものを贈る人のなかで、この二人こそもっとも賢明だったのだ。
と書いている。それは、彼ら二人が、自分が持っている一番素晴らしいものを相手のために使ったからだろう。
 受験生のみんな、自分の持っている最高のものをすべて自分へのプレゼントを手に入れるために使いたまえ。君たちがそうやって手に入れた誇らしい自分へのプレゼントこそが両親をはじめ周りのあらゆる人たちへの君たちからの一番の贈り物になるのだよ。
 
 頑張れ、みんな!!!


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