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朝霧

 

 白埴(しらはに)の瓶(かめ)こそよけれ霧ながら朝はつめたき水くみにけり

                                       長塚節

 

 朝起きると霧だった。
 なんだかんだ言いながら、やっぱり秋なのだ。
 もちろん涼しい。(朝だけだろうが)

 長塚節の歌を思い出した。
 思い出して、うれしくなった。
 うれしくなって、朝からこれを書いている。

 この歌は昔小学校の教科書で教わったような気がする。
 だとすれば、昔の小学校のレベルは相当高いことになるが、あるいは中学校でのことであったか。
 いずれにしても当時はただ暗誦しただけのことでそれが何を歌っているのか何も理解はしていなかった。
 けれど、それでいいのだ。
 いつかわかるときは来るのだ。

 秋冷到る、と或る朝、霧の中へ真白な瓶を手に水を汲みに井戸のある外に出る・・・。
 そのすがしさが感じられればよい。
 「大正三年」と書かれている一群の短歌の中にこの歌はあるが、その頃の日本はなんと飾りのない、なんと静かなすがすがしい朝を迎えてていたことだろう。
 それは私たちが少年の頃にもまだ残っていたものだったが。

 霧が晴れた後、遠くの蝉の声にまじって窓の下のコオロギは夜が明けてもまだ鳴いている。
 そのようにして季節は移り、たしかに秋はもうここに来ているらしい。

 

 


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