凱風舎
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にーじーランド


 「虹が!」
 殆ど信じられないくらいの巨大な虹が、病院や麦畑の真上から中空高く、強い色彩の橋を沖合の島の上まではるかに架けているのだ。あたかもその島の上まで、くったくした私の思想をうっちゃってしまうべく歩いて行けといわんばかりに、虹ははっきりと巨大な姿でかかっているのである。

 

 ― 井伏鱒二 「岬の風景」 ―

 

 大きく窓が取られた白い寄棟造りの平屋建ての建物が二棟並んで建っている。
 建物の白い壁と、棟と棟との境目辺りに植えられたももいろの花をつけた木は、明るく陽に輝いて、空には、まるでその白い家を祝福するかのように、完全な円弧を描く大きな美しい虹が、その家を包むように架かっている。・・・・・・・。

 ニュージランドに住んでいる恵理さんからのメールに添えられていた写真だ。

  こちらは雨が多くなり、冬らしくなってきました。
  1日のうち、何度も雨が降ったり晴れたりするので、毎日のように虹が見られます。

 そう書いてある。
 それにしても、なんと、美しい虹だろう!
 そして、なんと、しあわせそうな家だろう!!

 「統計要覧」を開いてみる。
 ニュージーランド   面積 27万㎢。
 日本は約37,7万㎢だから、その約8割足らずの国土だが、そこに、住んでいる人は406万人、とある。
 その数は600万の人が住んでいる千葉県よりも少ない。
 首都ウェリントンの冬6月の平均気温を見ると9.5℃。
 一番寒い7月でも8.8℃だ。
 (ちなみに一番暑い(?)二月の平均気温は16.7℃だ!)
 西岸海洋性気候だから、年間を通じ雨は降っているが、たしかに冬の方がすこし降雨量は多い。
 そうか、「常春の国」なんだな、ニュージーランドは。
 その上、毎日のように虹が見られるなんて!!
 私は、ニュージーランドに移住した恵理さんがほんとうにうらやましくなってきた。

 虹が見えるためには、陽が射さねばならないのだな。
 写真を見ながら、そんなあたりまえのことを、つくづく思ってみる。

 「これは恵理さんのおうちですか?」
 そうメールで尋ねたら、

  この白い家はフィリピン人のセリさん家族が住んでいます。
  私の家はこの家の斜め向いにあり、この写真では見えません。

 そんな返事が返って来た。

 《日本人のエリさん一家が住んでいる向かいにあるフィリピン人のセリさんのおうち。》

 いいなあ、そんなふうに人たちが暮らす町って。
 なんだか、いいなあ。

 ひょっとしたら、虹は、雨粒と陽の光だけでできているわけではないのかもしれないな。
 だって、写真の中の虹は、まるで家そのものが発している後光のように見えるのだもの!

 ほんとうは、世界中の一つ一つの家にはそんなやさしい後光のような虹が架かっているのかもしれない。
 ただ、ぼくらの国はそれが見えにくくなってなっているのかもしれないな。
 それは、ぼくら自身の「虹を見る能力」がさがっているからなのかもしれないのだけれど。


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