飆
飆(颷) ヒョウ 形声。 風+猋。
音符の猋(ひょう)は犬が群れ走るの意味。
また票に通じ、まいあがるの意味。
舞いあがる風、つむじ風の意味を表す。
― 鎌田正・米山寅太郎 『新版 漢語林』 (大修館書店)―
昨日の竜巻のさまを見て、またまた『方丈記』の辻風に関する記述を思い出したけれど、いつも『方丈記』では芸がないかと、同じ辻風のことを記した『平家物語』を開いたら、『颷(つじかぜ)』の題名が付いていた。
方丈記の方は「卯月の頃」と書かれているが平家の方は
同(治承四年)五月十二日午剋(むまのこく)ばかり、京中には辻風おびただしう吹(ふい)て人屋(じんおく)おほく顛倒(てんだう)す。
とある。
むろん旧暦だが、いずれにしても季節は今頃のことだ。
そして時刻は「午剋」というから正午をまん中にした二時間。
今回のが1時過ぎだったから、これもだいたい似ている。
竜巻というのはどうやら昼間もっとも暑い時刻に起こるものらしい。
まあ、石川県の竜巻なんてのは、冬日本海に発生してやってくるものなのだが。
それにしても
飆
とはなんという漢字であろう。
映像に見る北関東のありさま、まさに野犬の群れが駆け抜けたかのような惨状である。
平家のこの段は僅かに1ページにも満たない。
その終りにはこう書いてある。
是たゞ事にあらず、御占(みうら)あるべしと神祇官にして御占あり。「いま百日のうちに、禄ををもんずる大臣(おとど)の慎み、別しては天下の大事、幷(ならび)に仏法王法共に傾きて、兵革相続すべし」とぞ、神祇官陰陽寮共にうらなひ申ける。
これは何かの前兆であろうか、と占いをする平安末期の人々は滑稽であろうか。
地震、津波、洪水、竜巻と打ちつづくことに、人々が何やら言い知れぬ不安を抱くこと、今もまた同じではあるまいか。
むろん科学が教えることを無視する馬鹿げた迷信は論の外だが、むしろ謙虚に自然への畏怖を思うべきではないか。
昨日は日本中の原発の止まった歴史的な日であった。
思えば、経済、経済、経済、経済というので、再稼働すべしという事で政府が出した安全判断基準こそ、実は何も根拠ある裏付けがない「占い」なのではあるまいか。
被害に遭われた方にこのようなことを書くのは不謹慎の誹りを免れないが、天より降り下り、天に昇って行ったあの竜巻は、あたかも喉元過ぎたかのように懲りもせずあたふたと原発再稼働へ動き出している日本という国への、最後の
さるべきもののさとしか
なぞ思うてみたりする私みたいな者がいてもいいのではないか、と思ったりする。
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