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「幸福な王子」

 

「さあ、爆発するぞ」とロケットは叫びました。「全世界に火をつけて、えらい音をたててやるんだ、それでまる一年間、誰もほかのことは何も話さなくなるぞ」。そして、たしかに爆発はしたのです。パン!パン!パン!と火薬が爆発したのです。その点は疑いがありません。
 ところが誰もその音を耳にしなかったし、例のふたりの小さな男の子さえ、聞かなかったのです。

 

 ― オスカー・ワイルド 「すばらしいロケット」 (西村孝次 訳)-

 

 オスカー・ワイルドと言えば、まずは「ドリアン・グレイの肖像」というおそろしい小説がある。(前野氏ははじめて読んだ時びっくりしたらしい)
 あるいは「サロメ」という、ビアズリーのいかにも世紀末風な挿絵の入ったこれまたおそろしい戯曲もある。
 はたまた角川文庫に入っている「獄中記」は味わい深いし、スカーレット・ヨハンソンが主演した「理想の女(ひと)」という映画になった「ウィンダミア卿夫人の扇」もおもしろかった。
 さらにまた彼は警句の名手であって、たとえば

  男はきまって女の最初の恋人になりたがる。
  女の望み、それは男の最後の愛人になることだ。

などという、荒井由実が歌の文句にした俗なセリフも、もとはと言えばワイルドのものだし、

  すべての聖人には過去があり、すべての罪人(つみびと)には未来がある。

などという言葉は、はじめて読んだ私をしばらく呆然とさせたものである。

 とはいえ、私にとってオスカー・ワイルドといえば、なんと言っても、保育園の頃紙芝居で何度も見た、自らを飾っていた宝石や金を貧しい人々に届け、みすぼらしくなって倒された王子の像とその足もとで凍え死んだツバメのお話を書いた人ということになっております。
 「幸福な王子」。
 もちろんこれは大人になって読んでみてもやっぱりとてもよいお話です。
 
 さて、そんな彼が書いた童話の中に「すばらしいロケット」という花火の話があったなあ、などということを思い出したのは、もちろん今日北朝鮮のロケットがあえなく落っこちてしまったという話を聞いたからです。
 さて、これを今日読み返してみたら、この「すばらしいロケット」とは、自分のことを「すばらしい」と思ってイバッているとんでもないバカな花火のことで、これは今日落っこちたロケットのことではなく、あの国の「永遠の総書記」や今の「第一書記」のことを指していたお話でした。
 お話ではこの「ロケット」はやがて誰にも知られず消えてしまうのですが・・・。

 そう言えば、今日のニュースを見てたら、あの国でまたしても建てられたらしい巨大な二つ並んだ銅像のその除幕の光景を映しておりました。
 親子二代の像です。
 言うまでもなくあれはあの「幸福な王子」とは真逆のことを象徴する銅像です。
 あの国から「金」が剥がれる日は来ないのでしょうか。


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