浅学
「諸君にはまだ人生はわからない。ね。わかりたいつたつて、わかりはしません。それだけ諸君は幸福なんでせう。」
― 芥川龍之介 「毛利先生」 ―
世の中には、具眼の士、というか、炯眼の人というものはおるもんですな。
今朝、新聞を読み終えてパソコンを開けると司氏から
《その句》
と題されたメールが届いておりました。
本文の方は
『駅前旅館』で見たような。
そこで、私、さっそく本棚から井伏鱒二集を引っ張り出して中の『駅前旅館』読んでみました。
まったく四〇年ぶりのことです。
すると、物語の半ば過ぎたあたりに、たしかに出てきました。
主人公の連れの高沢という男が辰巳屋という飲み屋のおかみさんに言うセリフです。
その前に、高沢がスタンドの上で招き猫をいじくっているのを見て、おかみさんが
「あら高沢さん、いやですわ。駄目です、いけません」
と言うのを受け取って、その高沢が
「春の夜や、いやです駄目です、いけません」
と言うんですな。
おまけに、そのあとおかみさんは
「ふふふふ」
と含み笑いをしておりました!
(と言うわけで、昨日題字に五字あった「ふ」の字を今日一字減らしておきました)
しかしまあ、今から四〇年も昔の高校生のわたしにはこのセリフに対するアンテナなんてなかったんですな。
まあ、あの句は、それよって人生のなんたるかがわかる、などというものでもありませんが、何もわかりもせずに英語のリーダーの時間、机の下に『駅前旅館』なんて太平楽な小説を広げてた高校時代などというのは、毛利先生ならずとも「幸福なんでせう」と言いたくもなります。
それにしても、司氏の感度のよさよ!
感服つかまつりました。
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