凱風舎
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回転木馬

 

 草の葉には 草の葉のかげ
 うごかないそれの ふかみには
 てんたうむしが ねむつてゐる

 

  ― 立原道造 「ひとり林に・・・・」 ―

 

 金沢の大和デパートの屋上の飛行機の操縦席に冒険者のように乗り込んだ私は、けれども それがどこへも行かぬことを知っていた。
 すこし高みをゆっくりと回転する飛行機に一人いることの晴れがましさの後ろにある不安は、母親がさっきと同じ場所に立って自分を見つめて笑顔でいてくれることを確かめることで消えた。

 スバル君が
 「せんせ、卒業式に来ないんですか」
と聞く。
 毎年のことだ。
 こどもたちは見ていてもらいたいのだ。
 晴れがましさとはそういうものだ。
 旅立つとはそういうことだ。
 「行かないよ」
 そう答えるのも毎年のことだ。
 自分を見てくれない人がいることに慣れて、人はこどもを卒業してゆく。

 考えるのは誰のことでもない。
 津波で親を亡くした子どもたちのことだ。
 その心のことを考えている。
 人はだれも自分を見ていてくれる者のいないさびしい回転木馬に乗れるのだろうか。 


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