梅干
「そんなに考え込んでばかりいて! 人間は考えてはなりません、考えると年をとるばかりです。(中略)人間は一つのことに拘泥していてはいけません。そうすると、誰でも気が変になるものです。われわれは色々のことを、雑然と頭に持っていなければなりません」
― ゲーテ 『イタリア紀行』 (相良守峯 訳) ―
昨日は、細かな雨が、朝から。
降るのではなく、ただ辺りを濡らすためだけに、とでも言うように、一日中。
気が付けば、日暮れだった。
寒かった。
今日は曇り。
だが、寒いことに変わりはない。
今日も一歩も外に出ない。
思えばもう何日も外に出ていない。
下の郵便受にさえ行っていない。
まるで鬱の人みたいだ。
本当は無理やりにでも、外に出ていけばそれでいいのだが、気力が湧かない。
なにしろ、寒い。
こんなに長く寒い冬を過ごしても、まだ「地球温暖化」なんてことを深刻そうな顔で話す奴がいたら、そいつはきっと脳だけじゃなくて、感覚器官も狂っているのだ。
そういえば、ゲーテも北ドイツの陰鬱な冬がイヤさにイタリアへ名を偽って旅立ったのだ。
馬車に乗ってたどり着いた場所の緯度が毎日毎日低くなっていることをうれしそうに書いている。
でも、そんなゲーテも馬車で一緒になったイタリア人の大尉に、引用のような言葉を言われている。
暖かいところに暮らす人は、思考も明るい。
そして、正しい。
ところで、何年か前の新聞の投稿欄に、たしか五歳くらいの男の子が、冬、布団乾燥機で乾かしたふかふかの布団の上に飛び乗ったときこんなことを言った、というのが載っていたことがあった。
あったかいご飯の上に乗った梅干の気持ちがはじめてわかったよ!
うーん、なんとすばらしい感想だろう!
私も梅干になりたい。
梅干になって、あったかいご飯の上にのってみたい!
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