《徒然草》 第七十八段
今様のことどもの珍しきを、言ひ広めもてなすこそ、またうけられね。
世にこと古りたるまで知らぬ人は、心にくし。
いまさらの人などある時、ここもとに言ひつけたることぐさ、物の名など、心得たるどち、かたはし言ひかはし、目見あはせ、笑いなどして、心知らぬ人に心得ず思はする事、世なれず、よからぬ人の、必ずある事なり。
今はやりの新奇な事(言葉)を珍しがって言い広めもてはやすのも、また、バカじゃあるまいかと思う。
世間で言い古されるまでそんなことを知らずにいる人はすばらしいと思う。
今初めてやって来た人などがいる時に、自分たちの仲間内で言い慣れている言葉や、物の名前などを、意味がわかっている同士が、その一部分だけを言い合って、目を見かわしては、笑いあったりなどして、事情がよくわからない人に、何のことかわからに思いをさせたりするなどということは、必ず、世間の常識を知らない、教養のない人がやるものである。
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いわゆる「流行語」などというものは、要は若者のものであって、いい年をした大人はそんなものは使わないものである。
というか、そもそも、大人はそのようなものを知らないのがふつうである。
近頃は年末になれば「流行語大賞」なるものまで選ばれるらしいが、それを選ぶ者たちも、それについて語る者たちも、要はテレビ業界の者たちであって、それは、兼好に言わせれば、
ここもとに言ひつけたることぐさ、物の名など、心得たるどち、かたはし言ひかはし、目見あはせ、笑いなどして、心知らぬ人に心得ず思はする事、世なれず、よからぬ人の、必ずある事なり
ということになる。
まあ、別にそんなもの、心得ず思はされてもらっても結構なのですが。