《徒然草》 第三十三段
今の内裏作り出だされて、有職(ゆうそく)の人々に見せられけるに、いづくも難なしととて、すでに遷幸の日ちかくなりけるに、玄輝門院(げんきもんいん)御覧じて、
「閑院殿(かんいんどの)の櫛形の穴は、まろく、縁(ふち)もなくてぞありし」
と仰せられける、いみじかりけり。
これは葉(えふ)の入りて、木にて縁をしたりければ、あやまりにて、なほされにけり。
今の内裏が造営されて、朝廷の典礼などに詳しいひとたちに見せられたところ、どこも、御所として難点はないというので、いよいよ天皇もお移りになられようとする日も近くなったころ、天皇の祖母にあたられる玄輝門院様が御覧になられて、
「(かつての内裏であった)閑院殿の(清涼殿の鬼の間と殿上の間のしきりにもうけられていた)櫛形の窓の穴は、まあるくて、縁もなかったですよ」
と仰せられたのは、すばらしいことでした。
今の内裏の櫛形は葉の先端の形の切れ込みが入っていて、木で縁取りがしてあったので、それは正しい形ではないというので、直されました。
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こういう話には、私は、何も言うべきことはないのですが、ただ、本文を書き写しながら「葉」のふりがなが「えふ」となっていたのが、
「おーっと、F かよ!」
と、たいそうおもしろかった。
まあ、【いろはうた】の最後の「酔ひもせず」の部分は「ゑひもせす」と書くのですから、たしかに「よう」という読み方は、古文の表記では「えふ」となるんでしょうな。
ということは、太宰の「人間失格」の主人公である葉蔵という名前の正しいふりがなは「えふざう」ということになりますな。
賢治の「よたかの星」では、よたかは「市蔵」という名前にしろと、鷹にいじめられますが、「えふざう」はそれよりヒドイですな。
なにしろ、模試の合否判定で【F】が出たら、まあ、見込みなし、ってことですからね。
たしかに、これでは、人間【失格】、です。
ところで、ほんとうに「えふ」とよみたいとき、古文ではどう表記したのでしょうか。
これでは、当時アルファベットが入って来たとしたら、F の字に「えふ」とカナを打っても、「よー」と読んでしまうことになってしまいますぜ。
うーん。
古代の日本語には「えふ」などという発音する場面はなかったのでしょうかしら。
(誰か教えてください)