《徒然草》 第四段/第五段
後の世の事、心に忘れず、仏の道にうとからぬ、こころにくし。
来世のことを、心に忘れず、仏の道についても無関心ではないというのは、なかなかよい。
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不幸に愁へに沈める人の、頭(かしら)おろしなど、ふつつかに思ひとりたるにはあらで、あるかなきかに門(かど)さしこめて、待つこともなく明かし暮したる、さるかたにあらまほし。
顕基中納言のいひたりけん、配所の月、罪なくて見ん事、さも覚えぬべし。
不幸なことがあって愁いに沈んでいる人が、頭を剃って出家するなどということを、深い思慮もなく決心した、というのではなくて、生きているのか死んでいるのかわからないくらいにただひっそりと門を閉じて、将来に何を期待するふうもなく日々を暮らしているのは、まことにそうありたいものである。
そのような人は、顕基の中納言が言ったとかいう、流罪になって都から離れた所の月を罪もないのに見たい、ということを、なるほどこういうことかときっと思われることだろう。