「I am not Abe」(転載)
(a)二人の日本人が「イスラム国」の人質になっていること、
(b)水面下で交渉が行われていたこと
が分かった。突然の話のように見えたが、
①昨年11月には、後藤健二夫人宛に「イスラム国」と見られる犯人側からメールが届いたこと、
②外務省もそれを把握していたこと
も明らかにされた。(2)外務省の官僚がその事実を知れば、それは省内では大臣まで、官邸にもほぼリアルタイムで報告される。安倍首相や菅義偉・官房長官の知るところとなる。
官僚はリスクを嫌う。重要な情報の伝達を遅らせて何かあったら大変だから、上司に報告して自分の責任を免れるのだ。
つまり、安倍首相は後藤さんらの身に危険が迫っていることを知った上で、中東に行った。
そもそも普通の官僚なら、中東に行く前に、官房機密費などで人質を解放してもらおうと考える。しかし、官邸はこの案を蹴ったのだろう。
(3)米英などの超大国と肩を並べる有志国連合の主要メンバーとして認められたい・・・・という野望が、安倍首相にはある。
身代金を払って、それがバレたら、米英に対する裏切りとなって安倍首相の野望は潰える。
安倍首相は、そのリスク回避を優先した。
人命第一というのはまったくのウソだ。
(4)ウソは、(3)だけではない。
安倍首相は、エジプトで、「ISILと闘う周辺各国に、総額2億ドル程度、支援をお約束します」と述べた。
本来は人道支援であることを強調すべきなのに、逆に「イスラム国」と戦うための軍事的・政治的な支援であるかのように表現したのだ。
官僚的には、不要な誤解を招く表現でNGだが、その姿勢は米英などの列強国には高く評価され、「テロに屈せず戦う安倍」というイメージを広げることができた。安倍首相は、大喜びだろう。
(5)(4)はしかし、完全な二枚舌外交だ。本来できないはずの軍事支援をあたかもやっているかのように見せかけている。
それだけではない。国民を裏切る行為でもある。これまでの日本の外交努力は、日本国憲法に基づき、70年かけて日本は戦争しない国だという「平和ブランド」を確立した。日本は、主要国の中で最も敵が少ない国のひとつという地位を獲得した。
一方、米英などの列強は敵が多い。
安倍首相の言動によって、今、「イスラム国」だけでなく、イスラム諸国、さらには世界中に、
・米国の正義が日本の正義、
・日本は米国と一緒に戦争する国だ
というイメージが急速に広まり、
・米国の敵が日本の敵
になる懸念が高まっている。
(6)(5)は、日本国民全体を危険にさらす行為だ。仮に後藤さんが解放されていても、解消されない。
今後、世界中で日本人がテロリストに狙われるリスクは飛躍的に高まったのだ。
しかも、安倍首相は、今回のようなケースに自衛隊を派遣するための法改正をしたい、などと発言している。
一国の指導者に課された最大の責務は、国民を無用な戦争に巻き込まないことだ。
安倍首相は、これを完全に無視している。
(7)日本国民の心を表すのは、むしろ後藤健二さんの行動だ。
・敵も味方もない。
・戦争などの犠牲者、特に女性と子どもたちの姿を世界に伝え、戦争を根絶しよう。
そういう姿勢こそ、日本国憲法が求める道だ。安倍首相の、軍事力による「積極的平和主義」とは対極にある真の平和主義だ。
後藤さんの心を共有し、安倍首相の考えを否定する
「I am Kenji」
「 I am not Abe」
この二つが日本人の命を守る一対の救いのフレーズなのだ。
□古賀茂明「I am Kenji と I am not Abe ~官々愕々第141回~」(「週刊現代」2015年2月14日号)
【古賀茂明】I am Kenji と I am not Abe