宋人の「成長戦略」
宋人(そうひと)に其の苗の長ぜざるを閔(うれ)えて之を揠(ぬ)ける者あり。
昔、宋の国に、苗の成長がおくれているのを心配して、なんとか早めたいものと一本一本引っ張ってやった男がいた。
芒芒然(ぼうぼうぜん)として帰り、其の人に謂(かた)りて曰く、
グッタリ疲れきって家にかえるなり、家のものにこう言った。
今日は病(つか)れぬ、予(われ)苗を助けて長ぜしめたり、と。
「ああ、今日は疲れたわい。苗をみんな引き伸ばしてやったものだから」と。
其の子趨(はし)りて往(ゆ)きて之を視れば、苗則(すなわ)ち枯れたり。
息子が変に思って急いで田んぼにかけつけて見たら、苗はすっかり枯れしまっていた。
天下の苗を助けて長ぜしめざる者は寡(すくな)し。
世の中にはこうした馬鹿げたことをする者がいっぱいいる。
以(もっ)て益(えき)無しとなして、之を舎(す)つる者は苗を耘(くさぎ)らざる者なり。
何をやっても無駄だと大切な事を取り上げないのは田んぼの草取りをしない奴で、むろん、これはよくない。
これを助けて長ぜしむる者は苗を揠(ぬ)く者なり。
けれども、もっとよくないのは、早く成果を出したいとあせって余計な手出しをする奴である。
いうてしまえば、それは、おのずから成長するはずの作物そのものを台無しにしてしまったこの宋の国の男のような奴である。
―『孟子』〈公孫丑・上〉―
これはどこかの国の総理大臣のことを書いたお話ではありません。
あくまで「助長」という言葉の元になった昔の中国にあった宋というの国のバカなおっさんのお話です。