きのこ
一郎がまたすこし行きますと、一本のぶなの木のしたにたくさんの白いキノコが、
どてつこどてつこどてつこと、変な楽隊をやつてゐました。
一郎はからだをかがめて、
「おい、きのこ、やまねこが、こゝを通らなかつたかい。」
とききました。
するときのこは
「やまねこなら、けさはやく、馬車で南の方へ飛んで行きましたよ。」
とこたへました。
一郎は首をひねりました。
「をかしいな。まあもすこし行つてみよう。きのこ、ありがたう。」
きのこはみんないそがしさうに、どてつこどてつこ、あのへんな楽隊をつづけました。
― 宮沢賢治 「どんぐりと山猫」―