13つ
・・・
露霜の 秋に至れば
野もさはに 鳥すだけりと
・・・・
矢形尾(やかたを)の 我が大黒(おおぐろ)に
白塗(しらぬり)の 鈴取りつけて
朝狩(あさがり)に 五百(いほ)つ鳥立て
夕狩(ゆふがり)に 千鳥踏み立て
・・・
露や霜が下りる 秋ともなれば (実は「露霜の」はただの枕詞ですが)
野原にはいっぱい 鳥も鳴き騒いでいるぞと
・・・
矢の形をした尾羽を持つ 私の「大黒」という名の鷹に
銀メッキをした鈴をつけて
朝の狩りに 五百羽の鳥を飛び立たせ
夕べの狩りに (勢子や犬たちが)千羽の鳥を(藪を)踏んで飛び立たせ
・・・・
― 大伴家持 『万葉集 巻十七 4011 』―
小学校四年生のリョータ君は算数が得意である。
昨日も持ってきた算数の問題集プリントをすらすらすらすら解いていた。
彼の手がとまらないうちは私に用事はない。
というわけで、彼の向かいにすわってコーヒー豆をガリガリやり、お湯を沸かしに立ち上がったんだが、そのとき、ひょいと彼のプリントを覗いてみて、私、思わず大笑いしてしまった。
さて、問題はこんなのです。
39人でキャンプに行くことになりました。
ひとつのテントには3人ずつはいります。
テントはいくつもっていけばいいでしょうか。
簡単ですな。
こんな問題、みなさん、お出来になる。
39÷3=13
簡単である。
そして、かしこいリョータ君もそのように計算してある。
で、答えの欄を見ると
13つ。
うーん、「13つ」ですか。
たしかに「何メートル」ですかと問われていれば「13メートル」と答えればいいし、「何人ですか」と聞かれれば「13人」と答えればいい。
「何回ですか」と言われれば「13回」。
というわけで、「いくつ」と問われれば、まあ「13つ」と答えたくはなりますわな。
ところが日本語というのはコマッタもんで、「13つ」とは言わないんですな。
指折り数えるとき1から9までは
一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ、七つ、八つ、九つ
と「つ」がつくのに、十から先は「つ」がなくなるんですからこまったものです。
ですから「13つ」をあえて読むとしたら「じゅうさんつ」ではなく「とおとみっつ」と読むのがたぶんは正しいんでしょうかね。
しかしまあ、普通は「13つ」とは言わない。
では、みなさんはこの答え、どのように書くんでしょうか。
「13個」
でしょうかねえ。
でも、テントですからねえ。
「テント13個」
はヘンですわな。
「13張り」ですかねえ。
しかし、小学校4年生にそんなことわかりますかねえ。
日本語の《助数詞》、むずかしいですな。
というわけで、「正解」はどうなっているか、問題集の巻末の解答を見てみた。
13
キッパリ、これっきりでした。
うーん。
ところで、岩波の古語辞典で「つ」を引いてみたら、10以上の数字に「つ」の付いた例が載っていました。
今日の引用の青字の部分がそれになります。
というわけで、今日は久しぶりに「万葉集」の《巻十七》を読んでみました。
読むのは大石君が大学生の頃一緒に読んで以来ですから十年以上たちます。
なかなかおもしろかった
この巻は大伴家持が越中の国司として赴任した頃の歌が中心に載っている巻でした。
さて、引用の長歌とその後に続く反歌には後書きがあって、日付も付いていました。
天平十九年九月二十六日。
西暦でいえば747年、今から1300年ほど昔。
時に大伴家持、三十歳。
その前年、妻子を都に残しての越中の国への単身赴任して二年目の秋の歌です。
単身赴任の愉しみは、鷹狩だったんでしょうな。
これは、彼の自慢の鷹が部下の不手際でどこかへ逃げて行ったと嘆いていたところ、夢の中に少女が出て来て、もうすぐ見つかるよ、と言ってくれたとよろこんでる歌です。
たわいないと言えばたわいない。
(しかも、この「大黒」という鷹がほんとに見つかったかどうかは書いてありません。
ちょっと、気になるんですけど・・・)
そこに出てくる
「五百つ鳥(いほつとり)」。
なかなかカッコよろしい。
リョータ君の答えも
「十三つテント」
と書けば、なにやら古歌のおもむきがただよいますな。