凱風舎
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やばくないですか

 

  

     打つも果てるもひとつのいのち

    dah-dah-dah-dah-dah-sko-dah-dah

 

― 宮沢賢治 「原体剣舞連」―

 

たった今電話がかかってきた。

「はーい、テラニシですがぁ」

といつものように電話に出ると

「こんにちは、カズサです。おひさしぶりです」

と落ち着いた声がする。
カッチンである。

「おー、どした。元気かぁ」
と言うと
「元気です。でも先生、ヤバいんです!」
と声が上ずってくる。

「なにが」
「あのですね、全国大会で2位になったんです!」

彼女は今日茨城であった「高校生太鼓大会」…というのかどうか知らないが、ともかく太鼓を叩く高校生たちの全国大会に出かけていたのだ。
そこで2位というのは、言うてしまえば、太鼓の甲子園で準優勝したみたいなもんだろう。

「おーッ!すげーな!」
「そんなこと、ぜんぜん思ってもいなかったから、学校の名前呼ばれたとき、ザァーっとトリハダがたって、それから全然トリハダ消えないんです」
「すげーな、トリハダかぁ」
「ヤバくないですか」
「そうかもしれん」
「ヤバいですよ、めっちゃヤバくて!ヤバすぎます」

このごろの若い人は程度の甚だしいことはなんでも「ヤバい」という。

「あのですね、それで、こんど国立劇場でも演奏することになったんです」
「いやー、すげーなあ」
「ヤバいですよ!」

とまあ、「ヤバい」と「すげー」の交換だけみたいなでんわになってしまったんだが、なんだか、私、昔、平泳ぎでオリンピックの金メダルを取った当時14歳の岩崎恭子さんが

「今まで生きてきた中で一番しあわせです!」

と上気した声でインタビューに答えているのを聞いたときみたいな気がして来た。

うれしかったんだろうな。
なにしろトリハダがずっと消えないんだから。
私、61年も生きてるけど、そんな経験ないもん。

それにしても、これはなかなかすごいことだな。

ヤバくないですか?!これ。