凱風舎
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はっけん!

 

 春がもどってきたのを喜べなければ、どうして労働時間のすくないユートピアを喜べよう。木とか魚とか蝶、蛙、こういうものに子供のころのような愛情を持ち続けてこそ、平和で幸福な将来が多少とも可能になるのであって、鋼鉄とコンクリート以外のものは崇拝してはならないというのでは、人間のあまったエネルギーの捌け口は憎悪と指導者崇拝に向かうしかないのではなかろうか。

 

― ジョージ・オーウェル「都会の弱点」(小野寺健訳)―

 

 

 朝まで降っていた雨も上がって、今日はよいお天気。
 昼過ぎ、図書館に本を返しに行こうと裏路地を歩いていたら、向うから学校帰りの三年生くらいの男の子が二人やってくる。
 二人何かを拾ったと思ったら
  「ベンベン。ベンベン」
ひとりの子が、そういいながら、両手に持ったひらひらした物を上下に打ちあわせている。
 見れば、アメリカハナミズキの花びら。
 すこしピンクがかった大きな花びらだ。
 今日は風がすこし強いから、道に舞い落ちてたんだな。
 もうひとりの子も、同じはなびらを一枚、手に持っている。
 ぼくとすれちがったとき、その子が手にした花びらをつくづく見ながら隣の子にこんなこと言う。
  「これで、ギター弾けるかもしれないよ」

  そっかぁ!
  たしかにそいつは形も大きさもほんとにギターのピックみたいだなあ。
  でも、ピックにするには、そいつはすこしやわらかすぎないかい?
  でも、その花びらで君がギターを弾くと、きっと五月の風みたいな音が出るね。
  そして、ぼくはこれから毎年ハナミズキの花を見るたびに、きっと君の言葉を思い出してしまうね。

 ふふふ、いいこと聞いたなあ、って、頬をゆるめたまま図書館に着いたら、脇の空き地に、なぜだかネギ坊主が一本、イバッテ突っ立ってた。

 

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 ふふふ。
 やっぱり今日はなかなか愉快な五月のはじまりだな。