布団干し
布衾多年冷如鐡
― 杜甫 「茅屋為秋風所破歎」―
あたたかである。
窓に布団を干す。
我ながら無精というものはおそろしいもので、冬、晴れの日ばかり続く表日本にありながら、実に布団を干すのもひさしぶりである。
それというのも、前日杜甫の詩を読んでいたら
布衾(ふきん)は多年冷かなること鉄の如し
という詩句にぶつかって、「冷如鐡」とは、あまりに自分の布団のことのようなので大笑いしてしまい、今日は、意を決して布団を干すことにしたのだ。
(私の布団の場合これに加えて「重如鐡」とも言わなければならないのだが。)
と、まあ、そんなわけで、今日は布団を干して開け放したあたたかな窓脇の椅子にすわって本を読んでいた。
昨日古本屋の端本の棚で目にして買ってきた本である。
中央公論の「世界の名著 37 ミシュレ」100円。
私、不学にして、実はミシュレという人がどんな人かも知らずに、ただ「世界の名著」とあるので買っただけなのだが、これは全一巻『フランス革命史』というもので、いやはやこれが読んでみると実におもしろい。
いまだ全体の三分の一くらい読んだばかりだが、こいつは小説みたいにおもしろい。
というか、小説よりも面白い。
なんというか、新しい『プルターク英雄伝』とか『史記』を読んでいるような気になってくる。
それにしても歴史の中で人の語る言葉はなんとおもしろいことだろう。
たとえば、革命途中で病死した(or 毒殺)ミラボーは、あまりに急進的すぎて当時議会の中で嘲笑の的にしか過ぎなかったジャコバン・クラブのロペスピエールを評してこんなことを言う。
「この男は遠くまでいくぞ、なにしろ自分の言うことをみな信じている」
なるほど、そうか。
どっちの方角に行くにしろ、遠くまで行く奴というのは、どうやら自分の言うことをみんな信じている奴らしい。
ところで本の中でフランス革命は、今、優柔不断な王と王妃たちのヴァレンヌへの逃亡が失敗に終わったところまでやってきた。
どうやらフランスはこれからギロチンの滑り落ちる音ばかりが響く時代へと入っていくらしい。
まったくドキドキする。
まったくおもしろい。
ほんとうに続きを読むのがたのしみだ。