「内弟子」 前野狼騎さん
内弟子の制度は、芸事や囲碁将棋などで技を磨くため、先生の宅に住み込んで、掃除、洗濯、食事などの世話をしながら、師に教えを乞う仕組みで、かつては内弟子からその道の名人、達人が多く生まれました。現在では家族の形態や住宅の事情が以前と変わったことで、この仕組みはほとんど廃れてしまいました。
今では決まった日に先生の宅へ行って稽古をつけてもらった後に、食事や雑談をしながら師の人柄を知り、親しくなって帰るという、いかにも安直な「内弟子」も多くなったということにです。
さて、何を隠そう私狼騎は、この度、晴れて宝生流能楽師シテ方渡邊旬之助先生の「安直な内弟子」と相成りました。つまり、先生のお宅で結構厳しい能の稽古をつけて頂いた後、食事、飲酒のお供をして、談笑しながら能楽業界の裏話などを聞いたり、時には夜の茶屋街へ繰り出して、艶やかな芸妓の三味線や太鼓を聴きながら酌を取らせたりして、内弟子としてしっかり稽古を重ねている次第であり候ふ。
自称虚無主義者の狼騎ですが、還暦を過ぎて芸事を習う事になろうとは、正に人生不可思議にして候ふ。
春灯の窓越しに聴く謡かな 狼騎
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おたよりありがとうございました。
身体のはたらきや動きを極めてきた狼騎宗匠の能楽愛好もそこまで至りましたか!
すばらしい!
その心境たるや、以下の如くでございましょうか。
山より出づる 北時雨 山より出づる 北時雨
行くへや定め なかるらん。
これは北国がたより出でたる僧にて候
われいまだ都を見ず候ふほどに只今思ひ立ちて都へ上り候。
― 謡曲「定家」―
実際能を学ばれて、その「都」への途次のさまざまなお気づきをお聞きすることたのしみにしております。
すてぱん 拝