酔う
そのころは若かったので、ほかの若者たち同様、わしは自分の運勢を頼みにし、他の人びとを差しおいて特に自分を愛し、ひいきにしてくれる力の働きというものを信じていた。どのような奇跡であれ、それが自分に起るのでさえあれば、なんのふしぎもないと思っていたのだ。こういう確信が薄れはじめ、自分もほかの人たちとおなじ立場にいるのかもしれないとわかりはじめたとき、青春期は終りを告げる。
- イサク・ディネセン 「老男爵の思い出話」 (横山貞子 訳)-
なあるほどなあ。
こんなふうに青春を定義するってのもあるなあ。
・・・などと、こないだ61になってしまった「老塾先」は、若いころは並外れて美男子だったというこの「老男爵」とは、境遇のどこにもまったく共通項はないのだけれど、その一点にだけは共感したりするわけです。
誰かの歌のように
神様がいて、不思議に夢をかなえてくれた
というのは、なにも「小さいとき」だけではない。
作者のイサク・ディネセンはあの名画「バベットの晩餐会」の原作者ですな。
あの話もとてつもなくおもしろかったけれど、彼女の書く「物語」はほんとうにおもしろい。
これまで、ちくま文庫で「バベット」を含めて訳本が二冊出ていたのだけれど、こないだ本屋に行ったら、白水ブックスで2冊小説集が出ていたから買ってきた。
今日一冊読み終えたんだけれど、どのお話も、やっぱりなんとも不思議でなんともおもしろい。
なんだか、北欧の千夜一夜物語でも読んでるような。
教訓:物語に酔うのは、お酒に酔うよりずっといい。