凱風舎
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サウダーデ

 

 

 

 ―― ポルトガル語で一番美しい言葉は〈サウダーデ Saudade〉だといわれますが、ピリスさんにとってこれはいかなるものでしょう。

 

 ピリス  ああ、サウダーデ。これは他の国の言葉には訳せない言葉なのね。(略)
      誰かがいない、何かが欠けている。人でもまた風景でも、自分の好きなものがここになくて、淋しさと憧れ、悲しみとある種の喜びを同時に感じる・・・・それがサウダーデ。
      シューベルトのD960のピアノソナタがまさにそうです。
      苦しみながらそれを喜びとする・・・・あのソナタはこの感情を持っています。

 

 ― 辻原登 「新編 熱い読書 冷たい読書」―

 

 今年の塾も今日で終わり。
 夜、誰もいない静かな部屋に一人いる。

 年の瀬のこのしずかな夜はいい。
 毎年そう思う。
 今夜はコーヒーじゃなく紅茶。

 さっき、ひとり You tubeでマリア・ジョアン・ピリスの弾くシューベルトのD960のピアノソナタを聴いていた。
 やはらかな調べが私のこころをやさしくする。
 〈サウダーデ〉がどんな言葉かほんとうはよくはわからないのだけれど、言葉ではなく音楽でしか説明できない形容詞があるというのはすてきなことだ。
 そして、そんな形容詞を持つというポルトガル語をわけもなく贔屓にしたくなる。

 来年が、うつくしい言葉に出会える年でありますように。
 そして、私の口から発せられる言葉の多くもまたおだやかで美しいものでありますように。