阿蒼海句会
私のことをすぐに受け取ってくれる人。誰であればそのようにしてくれるであろうか。
― 永瀬清子 「流れる髪」―
先日、司氏よりメールがあって、宗匠・狼騎氏も「通信」に顔を出したことだし、新年に合わせて、句会めいたものをこの通信でやろうじゃないか、という話が来た。
年に何度も帰省して、そのたび阿蒼海(あ、そうかい)という名の句会を開いてもらっていた頃から、もうゆうに二十年以上がたったような気がする。
それ以来、宗匠、ならびに司氏以外、ふだん俳句などひねることもなくなってしまったわれわれである。
とはいえ、言われれば、作らぬではない。
各人、それぞれに「らしい」句をでっちあげて投句してきた。
もちろん、私も作った。
宗匠の出された季題は「山眠る」「早梅」。
それにお題として「風」というものである。
以下に載せるのは、各人の句であるが、作者名は伏せ、順番も出鱈目である。
この中から最秀句の「天」と、最駄句の「毒」(「逆」)を各自が新年早々選ぼうというのである。
わたしたちのやっていた句会のレベルがいかほどのものであるかを満天下にさらすなどというおそろしい企画である。
とはいえ、読者諸兄諸姉も、ヒマつぶしに、中によいと思う句があったらお知らせ願いたいものである。
お釈迦様は異国の少女の差し出した宝珠をためらいなく受けとってくれたそうである。
永瀬清子さんはそう書いている。
自分の差し出すものを「すぐに受けとってくれる人」をたぶん投句者も望んでいるのだろうと思う。
自分の差し出すものをすぐに受けとってくれる人がいる人はしあわせである。
たとえ、それが「逆選」であったにしても・・・。
では、これこそ枯れ木も山の賑わいというべきものながら披講させていただきます。
世のこともどこ吹く風ぞ天始め
束の間の青空見せて梅早し
大野より吹く風山を眠らせて
早梅のまだあるじなき儚さよ
大泣きをほれ見たことかと冬の梅
関東は空っ風吾には隙間風
世の中にをのことをみな山眠る
早梅や恋占いに導かれ
送信者不明のメール師走かな
ヤカン持つ重さ確かに年忘れ
酔いしれて除夜の蘊蓄繰り返し
鳥獣の鳴声途切れ山眠る
うとうとと師走床屋で句作かな
風の音に寝返り打つか眠る山
ほどけゆく飛行機雲や山眠る
山眠るさらさら越えの夢うつつ
スマホより演歌流るる年の鍋
落石の後の静寂山眠る
冬の梅 小枝が先に紅みたり
雪しまく北北西の風しまく
寒風に足取り軽く初バイト
老梅のもつともはやく咲きにけり
鉄柵の窓を覗けり早き梅
初夢や風の便りの街に来て
風さそう桜橋から初日の出
早梅や友の二階は日の射して
独り寝や「北風小僧」を口ずさみ
秘密保護熊の行方や藪の中
虎落笛六甲あたりは節が付く
木霊して「お元気ですか」と眠る山
十二月八日も山は眠りゐき
早梅や母の着物を引き継ぎし
寒風を二つ返事に出て行きぬ
じじとばば声かけあって風囲
夫の句を逆と選びし年始め
魚港市 風にあらがふ凍てかもめ
麓には石切りの跡山眠る
人去りて寺町通り氷雨かな
風向きをしかと見極め年始め
熱燗の銘は赤兎馬狼騎舞ふ